里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

1. 里見義実が結城の合戦を生きのびる

前:0. あらすじのあらすじ

里見(さとみ)義実(よしさね)結城(ゆうき)の合戦を生きのびる

このお話は室町時代の中頃を時代背景にしています。足利(あしかが)家が京都で将軍をしている頃ですね。

足利家といっても一枚岩ではなくて、次に将軍をやるのはだれかという点でもめることが時々ありました。大きな事件では、鎌倉で公方(くぼう)っていう地位にいた足利持氏(もちうじ)が、なかなか将軍になれる見込みがないせいで、イラついて幕府とケンカして(いくさ)に発展してしまった、なんてことがあります。(教科書的には、永享(えいきょう)の乱ってやつですね。)これのせいで、世は戦国の様相を強めつつありました。

新田(にった)源氏(げんじ)の子孫である里見義実(よしさね)はこのお話の主要人物のひとりで、日本の中ではわりと端っこの、安房(あわ)の国のお殿様になる人です。序盤しばらくは、この人のことが話の中心です。

このお話は、里見「八犬伝」っていうくらいで、八人のヒーロー(八犬士)がこの義実(よしさね)を助けて大活躍するっていう大筋なんですが、長い話ですから、なかなかこの八犬士たちは現れません。しばらくは義実(よしさね)とその娘の伏姫(ふせひめ)のエピソードを追いかけることになりますよ。


さて、結城(ゆうき)合戦という戦で、これに参戦していた里見家はいきなり義実(よしさね)を除いて全滅します。この戦は、室町将軍に敵対した足利持氏(もちうじ)の味方をしていた武士たちが、持氏(もちうじ)が死んだあと、持氏の子供を守ろうと結城城にあつまって、将軍側の軍勢にボコられるという位置づけのものです。城を守ってけっこうがんばりましたが、兵糧(くいもの)もなくなり、矢も尽き刀も折れて、結局結城側が、つまり里見家も全滅する羽目になるのでした。

このとき義実(よしさね)は19歳の若武者です。父季基(すえもと)と一緒にこの合戦を戦い抜いてきましたが、そろそろ落城は防ぎきれなくなってきましたので、この二人を含む城内の全員は、最後のひと暴れをして、華々しく散ってやろうということになりました。

父・義実・その他大勢「うおおおおおー」

父「ていうか、義実、お前は逃げろ。死ぬのは俺だけでいいわ」
義実「は?」
父「俺はここで足利への忠義をまっとうする。里見の役割は、これで果たしたことになるよ。お前は生きのびて、里見家をもっかい復活させなさい」

里見家は南北朝時代のころは南朝についていたのですが、あとになってやむなく北朝の世話になることになった経緯があります。その義理からここまで戦いにつきあいましたが、そろそろお役御免でいいでしょ、というのが父季基(すえもと)の考えです。

義実「イヤですよ、オレもここで死にますよ。逃げるとか、武士の恥じゃないスか!」
父「逃げて坊主とかになれというんじゃない、と言ったんだ。どうだ、これは恥じゃないだろう」
義実「ううっ」
父「杉倉(すぎくら)堀内(ほりうち)、わが子を頼むぞ」
二人「ははっ。若様、行きましょう!」義実の馬の尻ペッチーン!
義実「父上ぇーっ」(馬パカパカパカ…)

父は「さてこれで安心だ。いよいよこれがオレの最後の仕事よ」とつぶやき、その後、義実を逃すために最後の大暴れをして、ついに壮絶な討ち死にを遂げたのでした。


逃走中の義実は、やっぱり父のことが気になります。

義実「やっぱ戻る! やっぱ戻るから!」
杉倉・堀内「無茶いわないでください、無駄死にするだけですよ」
追っ手「卑怯者め、逃げるな、勝負しろよ! なんだ鎧ばっか立派なくせして!」
義実・杉倉・堀内「お前らが怖くて逃げるんじゃねえよ、なめんなザコ!!!」

って感じで、ときどき迫る追っ手も蹴散らしつつ、なんとか敵の来ないところまで落ちのびることができました。なんだかんだで、この3人は超強いのです。それから、笠をかぶって変装し、戦場を離れること3日間。やっと三浦ってところまで来ました。腹は減ったわ疲れたわで、もういいかげんヘトヘトです。今は堀内がちょっと遅れているみたいなので待っている最中。あとはここから船をつかまえて安房(あわ)まで渡りたいのですが…

杉倉(たまたま見かけた漁師の子どもに)「なあなあ、安房(あわ)に行く船って、ないかな。あと、なんか食い物ない?」
子ども「そんなもんあるか、戦のせいで船なんか徴用されちまったよ。ウチは漁師なのによ。食うや食わずの生活で、人にやる分なんかあるもんか。食いたきゃこれでも食えよ」と土くれを投げつける。
義実「おっと(自分に飛んできた土くれをキャッチ)」
杉倉「ムッカー、このガキ斬り捨てたろうか!」
子ども「ゲラゲラ」
義実「やめなよ、大人げないよ。こういうのは考え方次第だからさ。土くれを今オレがキャッチしたってことは、領地が手に入るっていう前兆じゃない? これってラッキー? みたいな」
杉倉「(むむ。なかなかできた若様よ…)」

その後、雨風が激しくなってきました。雨宿りさせてもらえるところも見つからず、主従二人は岸辺に立ち尽くします。そのとき突然、遠くで砕ける波の中から白い竜が飛び出して、南に向かって飛び去った…ように、義実の目には見えた気がしました。

義実「今の見た? 白い竜がいなかった? 尻尾のあたりが見えたんだけど」
杉倉「そんなように見えた気もしますが… 強いて言えば、(もも)のあたりが見えたかな」
義実「これは凄いよ。白竜はスーパーラッキーアイテムだ。そして、白は源氏の色、南は房総のことだ。なるほど、あそこらへんがオレの領地になるんだな。あと、杉倉が「(もも)」を見たってのは、お前がオレの股肱(ここう)の臣ってことだ。うっひょう、やりぃ」
杉倉、こっそり懐から国語辞典を引っ張り出す。『股肱:一番信頼できる部下』とな。
杉倉「(竜の話にしろ「股肱」にしろ、この若様、何気に教養もハンパないな…)」

そのころやっと堀内が追いつきました。気の利いたことに、ちょっと離れた水崎ってところまで渡し舟を探しにいって、それに乗って岸までつけてくれたのでした。なんとオニギリまで持参している。杉倉が「あいつまさか逃げたんじゃないのかな」と疑い始めたころだったので、なかなかバツが悪い。堀内はそんな杉倉の様子を見てバカ笑い。義実も笑います。

義実「はっはっは、オレは信じてたからね、ホント。武士の付き合いってのは、こういう遠慮のなさがいいよね。さあ、安房に行こう。俺たちの未来は安房にあるに違いない」


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