里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

22. 浜路が実の両親のことを知りたがる

前:21. 犬塚信乃、蟇六の養子になる

浜路(はまじ)が実の両親のことを知りたがる

蟇六(ひきろく)亀篠(かめささ)の計画は、まあまあ順調に進行中です。番作が村人のカンパで分けてもらった田んぼは、まんまと自分たちが手に入れました。村人の前ではああ言いましたが、浜路(はまじ)信乃(しの)を結婚させるつもりなんか、全くありません。もっと自分たちの格を上げるような良縁を見つけて、そこに嫁がせるつもりです。信乃(しの)は、実はとっととというのが正直なところです。

しかし、信乃から宝刀村雨(むらさめ)をなんとかして奪わないことには、計画は完成しません。この刀を関東管領にささげて、わが身を安泰にする必要があるからです。刀を奪うまでは、なんとかして信乃(しの)を油断させておく必要がありますので、蟇六(ひきろく)たちは心に刃を研ぎつつも、上っ面だけは精一杯信乃(しの)に親切にしているのでした。

信乃のほうでもこのことは分かっていますので、表面的には素直な息子を演じつつ、刀だけは絶対に取られないよう、油断を欠かしません。普段も腰から離すことはありませんし、寝るときも必ず枕元に置いておきます。額蔵(信乃と仲が悪いフリ続行中)の協力もありましたので、簡単には蟇六(ひきろく)たちに出し抜かれることはありません。こうして、村雨(むらさめ)をかけた水面下での攻防は、長期戦になってきました。

あっという間に月日はたち、信乃は18歳になりました。もはやそこらへんの者では相手にならなさそうな、賢くて力強い男です。いよいよ簡単には刀を奪えそうになくなってきましたので、蟇六(ひきろく)たちはかなり困りはじめました。さらに、浜路(はまじ)は16歳になって非常な美人になったのですが、約束どおりに早く信乃と結婚させるべきだ、と言う声が村人たちからしきりにあがってきて抑えきれない感じになりましたので、これも悩みのタネとなりました。浜路(はまじ)は信乃が好きで、秘かにワクワクしているようです。

蟇六(ひきろく)「これ以上待っていれば、色々と手遅れになりそうだ。早く信乃を…」

そんなころに、里の近くで合戦がありました。ながく栄えていた豊嶋(としま)練馬(ねりま)の領主である(たいらの)信盛(のぶもり)が、関東管領の山内(やまうち)家と扇谷(おうぎがやつ)家に怨みを買って攻められるというものでした。信盛(のぶもり)とその弟の倍盛(ますもり)はそれぞれ討ち死にし、一族は全滅してしまいました。

蟇六(ひきろく)たちにとっては、この騒ぎはちょっとした猶予期間に思えました。

蟇六(ひきろく)「今は世の中がちょっと物騒なので、あれだな、浜路たちの結婚は少なくとも来年以降にしよう」

ところで浜路(はまじ)は、自分が養子であることをこの歳になるまで知りませんでした。蟇六(ひきろく)たちはこのことを隠していたのです。それが最近、ちょっとしたきっかけで、自分は練馬(ねりま)の領主筋の出身であることを知りました。しかも自分には兄弟か姉妹もいるらしいということでした。そして、それに続いて、最近あったという戦乱の噂が浜路(はまじ)の心に大きなダメージを与えます。

浜路(はまじ)「この前の合戦で練馬(ねりま)の人たちが全滅したっていうのは、私が知っているあの練馬(ねりま)のこと!? それじゃあ、私の実の親や兄弟姉妹は、みんな死んでしまったってことなのかしら。また会ったことさえなくて、名前さえ知らないのに!」

亀篠と蟇六が浜路(はまじ)をどう育てたかは大体想像がつくでしょうが、人目のあたるところだけで浜路(はまじ)のことを「これ見よがしに」可愛がるだけでした。それ以外はずいぶん詰まらないことで怒鳴ったり、つねったりされ、正直なところ浜路(はまじ)はあまり幸せではなかったのです。ですから、「実の両親」というものがどういう人たちなのか、強い憧れをもったのでした。

浜路(はまじ)「私の実の身内たちのことをどうしても知りたい… もし死んでいたのなら、せめてお墓に参りたい。でも、今のお父さんたちに聞くわけにはいかない… 私がいま相談できる人は、信乃(しの)さまだけだわ」

浜路は信乃の部屋に行き、勉強中の信乃に声をかけようとしました。

が、その瞬間に、誰かが近づいてくる足音がありましたので、ハッとおどろき、何もできずに逃げてしまいました。近づいてきたのは亀篠(かめささ)です。

亀篠(かめささ)「…あのコ、何をしていたのかしら? まあいいわ…」

亀篠(かめささ)が用があったのは信乃のほうです。

亀篠(かめささ)「信乃くん、いま、糠助(ぬかすけ)が危篤なのよ。私にはどうでもいいことだけど、最期にあなたに会いたいって言ってるらしいので、行きたければ行ってやってもいいかもね」


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