里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

0. あらすじのあらすじ


思いつきのように始めたこの「八犬伝あらすじ」ですが、当初の想定を大幅に超えて長くなってきました。ウン十万字超えの「あらすじ」って何だそれ。

ですから、お話全体のもっとおおまかな全体像を最初に示して、読んでみたくなった人のためのナビにできたらいいかな、と思い、この回を先頭に追加してみました。不要な人は、この回は飛ばしても全然問題ありません。

具体的なことを色々とぼやかして書いてありますので、ネタバレ要素は最小限と思います。江戸時代に書かれたお話にいまさらネタバレもないでしょうが。


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まず、この『里見八犬伝』は、ものすごく簡略化すると下のようなお話です。

 ○ 伏姫(ふせひめ)という里見家の聖女が、八人のヒーローの「魂」を生む
 ○ その「魂」は「玉」の形で各地に散らばり、改めて人間の子供として生まれる
 ○ その子供たちは育って自分の使命を知り、やがて里見家に集結する
 ○ 八人そろった勇士たちが、団結して里見家の危機を救う

これを踏まえて、よく知られている人物や名シーンがどこらへんに現れるかを挙げていきます。

あ、八人のヒーローのそれぞれを、「犬士(けんし)」って呼ぶときがありますのでよろしく。

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伏姫(ふせひめ)が八つの玉を飛び散らす(たぶん一番有名!)

安房のお殿様である里見(さとみ)義実(よしさね)は、飼い犬・八房(やつふさ)と交わした冗談のような約束を本当に守るハメになってしまい、愛する娘、伏姫をこの犬と結婚させることになります。

そもそも義実(よしさね)は一介の落武者(おちむしゃ)だったのですが、父の遺言に従ってがんばり、安房の殿様にまで出世しました。その途中、玉梓(たまづさ)という女にものすごく恨まれます。(逆恨みなんですけどね。)八房(やつふさ)は、彼女の呪いが入り込んだ犬だったのです。

とはいえ、伏姫(ふせひめ)自身の高い徳の力により、八房(やつふさ)はこの呪いを清められて成仏してしまいます。ここに、呪いが「逆転」して、里見家を守る正義の魂たちが生まれました。これの象徴になるアイテムが「玉」です。玉が飛び散るシーンは、とても感動的な一方、けっこう残酷です。

義実が殿様になるまでの話が、1~7話くらいまで。

伏姫が生まれてから例の「玉」のシーンまでが、8~14話くらいまで。


犬塚(いぬつか)信乃(しの)の生い立ちと、仲間を探す旅

関東中に飛び散った八つの「玉」はそれぞれ人間の子供が手に入れることになるのですが、はじめに登場するのは犬塚(いぬつか)信乃(しの)です。信乃(しの)少年がはじめて「玉」を手にするシーンは、これまたなかなかの凄惨さです。

この後、同じ「玉」を持つ額蔵(がくぞう)少年と出会って仲間になり、やがて、まだ見ぬ仲間たちを探すことが自分たちの運命らしいぞ、と薄々ながら気づきます。そこから否応なしに二人の旅がはじまってしまいます。二人の旅は途中まで別々のコースです。

信乃の生い立ちから、額蔵を仲間にするところまでが、15~21話くらいまで。

ふたりがそれぞれの旅に出るところまでが、22~30話くらいまで。

信乃の話にからめて、悲劇のヒロイン浜路(はまじ)と、伝説の名刀・村雨(むらさめ)も出てきます。後に仲間になる犬山(いぬやま)道節(どうせつ)もチラ見できますよ(28話)。


犬江(いぬえ)親兵衛(しんべえ)の誕生→すぐに神隠し

信乃は、旅の途中で、同じ「玉」の仲間である犬飼(いぬかい)現八(げんぱち)犬田(いぬた)小文吾(こぶんご)に出会います。(30話~33話くらい)現八(げんぱち)との出会いのシーンは、いわゆる「芳流閣(ほうりゅうかく)の戦い」として知られています。

この後、驚くべき事件が起こって、みなが見守る中、犬江(いぬえ)親兵衛(しんべえ)が壮絶な誕生を果たします。同時に、里見家から送り出されて「玉」集めの旅をしている丶大(ちゅだい)法師もこの場に登場し、「玉」の由来と持ち主たちの使命が明かされます。(34~40話くらい)

親兵衛(しんべえ)はワケあってこの直後神隠しにあってしまい、相当先までもう出てきません。(まあ、出てきたら出てきたで、その後出ずっぱりになるんですけど)


荒芽山(あらめやま)の戦いまで

信乃は、出会った仲間をつれて生まれ故郷に戻り、額蔵に再会しようとするのですが、なんと、額蔵が無実の罪で死刑になろうとしていることが判明します。これを救い出すのが、41~44話くらい。矠平(やすへい)という老人に結構助けてもらいます。

ところで、犬川(いぬかわ)荘助(そうすけ)(額蔵から改名)は、信乃がいないときに、犬山(いぬやま)道節(どうせつ)に会っていました(そのときはケンカ別れしてますが)。信乃たちは旅をつづけ、この道節(どうせつ)が、単身、主君の(かたき)である関東(かんとう)管領(かんれい)(後のラスボス)に戦いを挑んでいるところに巻き込まれてしまいます(45話)。

(あえてラスボスと言いましたが、ここは色々と異論があるでしょうね… まあ、正確さはともかく、分かりやすく言ってみたまでです)

戦いの合間には、道節がはっきりと仲間になったり(46~47話くらい)、前に出てきた矠平(やすへい)老人にまつわる人間ドラマがあったりします。(48~50話くらい)

関東管領との(最初の)戦いのクライマックスは、荒芽山(あらめやま)の戦いです。この後、せっかくいいところまで集まっていた犬士たちは散り散りになってしまいます(51話)。


荒芽山(あらめやま)の戦い以降

このあとは、バラバラに別れた犬士たちが、仲間を探して全国をウロウロしながら、行きがかりで出会った様々なクエストをこなしていきます。その中で、小文吾は犬阪(いぬさか)毛野(けの)に出会い、現八は犬村(いぬむら)大角(だいかく)に出会います。他にも、のちのクライマックスの伏線になるような人物があらわれて色々と犬士たちに絡みます。52~87話のあたり全部がこんな感じ。バラエティ豊かで楽しいところです。

「あらすじ」という枠で語るかぎり、せいぜいこんな説明しかできない気がします。詳しく書き出すと、またウン十万字になっちゃいそうで。

小文吾が冒険ののち毛野(けの)と出会うまでが、52~58話くらい。女装男子が出てくるよ。

現八が冒険ののち大角と出会うまでが、59~67話くらい。化け猫が出てくるよ。

信乃が丶大(ちゅだい)法師と道節に再会するまでが、68~72話くらい。バッカモーン、そいつがルパンだ!

小文吾が荘助に再会するのが、73話~77話くらいまで。小文吾・最強生命体説。

こののち、それぞれのミニパーティが合流しだして、86話のあたりではもう、毛野(けの)親兵衛(しんべえ)以外はみんな連絡がとりあえる状態になります。

87話は、ぜんぜんオマケ。丶大(ちゅだい)フィーチャー回なんだそうですが。


毛野(けの)道節(どうせつ)の復讐劇

毛野(けの)は何回かほかの犬士たちに会うんですが、一族と父親の(かたき)討ちを果たすまでは一緒に行動できない、という強いこだわりを持って、一人でがんばりつづけます。80~82話のあたりに、そういった思いが明かされる場面があります。

88~92話で、そこらへんの話がいろいろと展開していき、ついに毛野は宿願を果たして、犬士たちのパーティに加わります。

毛野(けの)の敵討ちと道節(どうせつ)の敵討ちには、対象が若干ところがありました。道節(どうせつ)のターゲットは相変わらず関東管領ですが、毛野(けの)のカタキは、当時、その管領の重臣だったのです。毛野が敵討ちを果たしたことで管領は怒り、ちょっと無謀な戦いを始めて、道節と仲間の犬士たちにボロクソに負けてしまいます(92~96回)。

管領は一応生き延びましたが、道節の敵討ちも、これである程度満足したとみなされます。

これで、七人の犬士がそろいました。あとは親兵衛(しんべえ)待ちの状態ですが… ここからがまた長いんだ。


親兵衛(しんべえ)復活( vs. 素藤(もとふじ)

犬江(いぬえ)親兵衛(しんべえ)は、神隠しにあった後、実は義実(よしさね)たちのいる安房の山奥で元気に育っていたのでした。ある日、義実(よしさね)のもとに暗殺者が訪れるのですが、これを救うという形で、劇的に新生・犬江親兵衛が登場します。

義実(よしさね)を暗殺しようとした黒幕は、上総(かずさ)の館山城にいる素藤(もとふじ)という男でした。彼には、妙椿(みょうちん)という妖術使いが味方についていますので、なかなか里見軍だけでは攻略できない。これを親兵衛(しんべえ)が颯爽と解決します。

素藤(もとふじ)の生い立ちから、館山城の城主になるまでのストーリーが、97~100話くらいに書かれています。悪役のサブストーリーということで、ちょっと今までと毛色が違います。

素藤(もとふじ)が、国主の息子を誘拐するという形で里見に反旗をひるがえすのが、101~103回くらい。親兵衛があらわれてそれを解決するのが、104~108回くらい。

素藤(もとふじ)はいったん負けて城を失いますが、再び妙椿にはげまされ、すぐにリベンジを計画します。計略をつかって、親兵衛が里見家から追い出されるように仕組み、それは成功してしまうのでした(109~110回くらい)。親兵衛は、しばし放浪の身となってしまいます。

この機会に、素藤はふたたび城を奪い返します。里実義成(よしなり)義実(よしさね)を継いだ国主)は、親兵衛を追い出してしまった過ちを反省します。(111~114回くらい)

しかし、親兵衛にとっては、今回の放浪は、さらに多くの仲間を味方にするチャンスともなりました。政木(まさき)大全(たいぜん)次団太(じだんだ)といった重要人物と出会い、いっそう強力になって里見のもとに戻っていくのです。そしてついに、素藤と妙椿に対して決定的な勝利をあげることに成功します。(115~122回くらい)


■八犬士集結

丶大(ちゅだい)法師は、義実(よしさね)たちがかつて戦った結城の古戦場で、戦死者たちをを供養する法要を行います。七犬士もそろってこれに参加します。その後、お邪魔キャラが現れて丶大(ちゅだい)たちを襲うのですが、素藤との戦いを終えて駆けつけた親兵衛も参加してこれらを撃退します。ここに、やっと八人の犬士がそろいました。(123回~127回くらい)

最初は敵のように思えた結城の人達とも、誤解が解けて仲良くなりました。(128回~129回)

ついに丶大は目的を達成し、そして犬士たちは晴れて里見に仕官するために、みんなそろって安房に凱旋します。伏姫の墓にも参ることができて、一件落着!(130回~131回くらい)

ここでお話が終わってもおかしくない感じですし、ここまでこれば、大体読んだよ、と言う資格はあると思います。

でも原作はまだまだ続くんですよね。このお話は、八犬士が里見家のために戦った、というものなんですから。このままだと、まだ集まっただけ、みたいな。


■親兵衛・京都行き

八人の犬士がそろった記念に、朝廷に新しい姓をもらってこようという話になります。この使節に選ばれたのが親兵衛(しんべえ)。このために、何人かのお供をつれて京都まで旅をします。

行きにも若干トラブルはありましたが、お使い自体はスムーズに終えることができました。しかし、親兵衛(しんべえ)だけが滞在先から帰してもらえなくなります。結城で出会ったお邪魔キャラが、ここでも親兵衛(しんべえ)の足をひっぱろうとしたのです。

親兵衛(しんべえ)は、京に突然現れた巨大虎を倒し、その見返りとしてついに安房に帰る許可を得ることができました。

姓をもらおう、と決めてから京に着くまでが、131~135回くらい。

帰れなくていろいろと引き止められてしまうのが、137~141回くらい。途中、成り行きで武芸大会に参加したりします。なんという少年ジャンプ。

虎が京にあらわれて、それを親兵衛が倒すまでが、142~146回くらい。

それからの後日談が、147~150回くらい。親兵衛は、誠実な言行によって、ゴミ溜めのような京都の中でも、多くの味方を作ることができたのでした。(京都の悪口じゃなくて、当時は応仁の乱でモラル的に荒れ果ててた、って意味ね!)


■管領連合軍との戦い(関東大戦)(180回くらいまで)

関東管領・扇谷(おうぎがやつ)定正(さだまさ)は(お話の中では)愚かな人でした。自分の悪政のせいで、重臣が離れていったり城を失ったりしていたのですが、あるとき、これはみんな安房の里見のせいだ、と決め付けます。

このために、自分の影響下にあるほかの国々に声をかけて大連合軍を結成し、里見を滅ぼすための戦いを仕掛けました。

戦場は大きく三つに分かれました。それのことごとくで、八犬士率いる里見軍は、数で大幅に圧倒するはずの連合軍を破りました。結局のところ、寄せ集めのような管領軍では、一枚岩の里見軍にはかないっこなかったのです。

里見軍はできる限り敵を殺さず、後の和睦をスムーズに進めました。親兵衛が京都で将軍家や公家に味方をたくさん確保していたので、このこともすごく役に立ちました。


■エンディング

こうして関東には平和が戻りました。最後に、里見家が最終的に滅亡するまでの歴史が簡単に語られて、物語は終了します。八犬士たちは、代が替わるたびに徳が衰えていく里見家を見限って去り、最終的には仙人になったことがほのめかされます。


以上、数百人の登場人物が現れる長大な物語ではありますが、むちゃくちゃ複雑というわけではありません。毎回毎回、「次はどうなるの」というドライブ力がとても強いですから、いったんノってしまうと、どんどん読めるものですよ。

唯一のうらみは、古文調でなかなか取り付きにくいところですよね。大丈夫、そのためにこれを書いたんですから。本物の『南総里見八犬伝』を読んでみたい、でも長すぎるし難しすぎる、と思っていたかたが、これを読んで「なるほどそういうお話なのね」くらいの知識を得てくれたらうれしいです。


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