里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

2. 山下定包が調子にのっている

前:1. 里見義実が結城の合戦を生きのびる

山下(やました)定包(さだかね)が調子にのっている

さて、里見義実(よしさね)たちが海峡をわたって安房の国にたどり着いたとき、ここら一帯をどういう勢力が治めていたのかを見ておきます。

安房の国は四つのエリアから成り立っています。平郡(へぐり)長狭(ながさ)安房(あわ)朝夷(あさひな)です。安西景連(あんざいかげつら)が安房をおさめ、麻呂信俊(まろのぶとし)朝夷(あさひな)を、神余光弘(じんよみつひろ)が残りのふたつのエリアを治める格好です。だからまあ、神余(じんよ)がここらへんのナンバーワンという感じでした。

(安房の国に安房があるのが紛らわしいね。まあ、千葉県に千葉市があるようなもんでしょう。)

ですが、神余(じんよ)玉梓(たまつさ)という悪女に引っかかって、酒びたりのダメダメな日々をすごしています。玉梓(たまつさ)に賄賂をおくったものは出世し、罪があるものも賞せられるといったあんばいで、実に政治が乱れています。おかげで有能な家来はあきれて出ていき、ずるい奴ばっかりが残ってはびこりました。なかでも一番ずるくて悪い奴が、山下定包(さだかね)という男です。上っ面のハンサムさと口のうまさから定包(さだかね)はなかなか評価されており、玉梓(たまつさ)にもドシドシ贈り物をしたので(それどころか実はもうデキてました)、ついに第一の家臣として神余(じんよ)に重用されるようになりました。もはや、権力のほとんどを定包(さだかね)玉梓(たまつさ)が握っているようなもんです。自分たちの遊ぶ金のために、税金をむちゃくちゃ取り立てたりもします。自分たちにたてつく人を、罪もないのに死刑にしたりもします。定包(さだかね)の乗る白い馬を見かけると、人々は白い人食い馬が来た、とヒソヒソささやいたといいます。

民の中には、定包(さだかね)の悪行を許しかねて義憤に燃える者が何人かおり、ついに暗殺の計画が立ち上がりました。杣木朴平(そまきのぼくへい)と、須崎(すさき)無垢三(むくぞう)というコンビが首謀者です。定包(さだかね)は時々お忍びで遊山(ブラブラ)することがあり、そのチャンスを狙ってやっつけようということになりました。ですが、壁に耳あり障子に目あり、この計画はいつの間にか定包(さだかね)にバレてしまいます。

定包(さだかね)はさっそくその二人をパクろうとしますが、のでした。ある日、神余光弘(じんよみつひろ)玉梓(たまつさ)にヒザまくらをさせてウトウトしているときに、

定包(さだかね)神余(じんよ)さま、たまには外出などしないと健康に悪うございます。狩にでも出てみてはいかがでしょう」
玉梓(たまつさ)「あらステキ」
神余(じんよ)「うーん、そうだね。ナイスアドバイスだね。やってみようか…」
定包(さだかね)「それと、変装して外出したほうがよいでしょう。殿様だとわかると、民がかしこまって仕事の邪魔になってしまいますからな。こういうところを気遣うのが仁君(じんくん)というものです」
神余(じんよ)「お前はかしこいなー」

まあ、つまり、定包(さだかね)は、自分を狙う(やから)に、自分ではなくなんと神余光弘(じんよみつひろ)その人を暗殺させてしまおうと目論んだのでした。これはひどいね。

不幸なことに、この計画はうまくいきました。それとなく村長たちに「どこそこに定包(さだかね)が外出する」という情報をリークしておいてから、白い馬に乗った神余(じんよ)をまんまとそこに送り込んだのでした。(神余の馬が調子が悪くなるようにしておき、定包(さだかね)はさりげなく自分の馬を神余に貸したというわけ。)

馬を取り替える羽目になったことに不吉なものを感じた者たちもいました。近臣の那古(なこの)七郎(しちろう)天津(あまつ)兵内(ひょうだい)が「今日の狩はほどほどでやめるほうがいいですよ」といさめたのですが、神余(じんよ)は聞き入れませんでした。ふたりの不吉な予感はあたってしまい、ついに、待ち伏せしていた朴平(ぼくへい)無垢三(むくぞう)は、定包(さだかね)と思い込んだその相手に矢を打ち込みました。ひとつは胸に、ひとつは喉に。神余(じんよ)はあえなく絶命します。

すぐさま二人は従者に追われはじめます。それらのうちの十数人(天津(あまつ)を含む)を弓矢で撃退しますが、ついに矢は尽き、無垢三(むくぞう)那古(なこの)七郎(しちろう)に斬り殺されます。朴平(ぼくへい)はその七郎の腕を斬りおとして倒しましたが、その後別の雑兵(ぞうひょう)に腿を射抜かれて、半死半生で捕らえられます。その前におごそかに立ちはだかったのは、他ならぬ山下定包(さだかね)です。

定包(さだかね)「殿を殺した逆賊め、覚悟せよ」
朴平(ぼくへい)「あ… あ… おのれ定包(さだかね)!」

かわいそうに朴平(ぼくへい)は、捕らえられてすぐに獄死してしまいました。また、朴平(ぼくへい)無垢三(むくぞう)の仲間とみなされた(つまり定包(さだかね)が普段から気に入らない)人々もまた捕まって死刑になりました。

定包(さだかね)は今回の件で、一番の手柄です。ほかの家臣たちはビビってろくに声もあげません。定包(さだかね)は皆を会議室にあつめ、

定包(さだかね)「さて、急ぎ、世継ぎを立てなければいけないよね。神余(じんよ)様にはお子もいないよね。安西や麻呂にも、養子にくれるような余分な男子はいないよね。?」
みんな「山下さまがやるのがいいとおもいます…」
定包(さだかね)「うーん、そこまで言われては仕方ないから、ほかにふさわしい世継ぎが見つかるまで、僕が仮に領地を治めることにするよ。野心はないんだよ。それでもみんなが頼むんじゃ仕方がないよね。野心はないんだよ、ほんとだよ(ニヤニヤ)」
みんな「ば、ばんざーい…」

もちろん「仮に」なんてのは方便で、いよいよそれから玉梓(たまつさ)といっしょに政治を私物化して贅沢放題のやりたい放題、ここら一帯は定包(さだかね)の思うがままになってしまったのでした。

定包(さだかね)は、となりの領地の安西(あんざい)麻呂(まろ)にも使いをよこします。「思いがけず平郡(へぐり)長狭(ながさ)の領主になった山下です。挨拶したいのですが、こちらからうかがいましょうか、そちらから来ていただきましょうか。ここらへんは、決めることかと思いますが…」

なめくさった使いに、安西、麻呂ともムカつきます。攻め込んでやろうかとも思いますが、なかなか調子の上がっている相手のようで、正直ちょっと怖い。どうしてやろうか…

といった感じのときに、里見義実(よしさね)が安西の領地である安房の白浜に流れ着いたという知らせが入ってきたのです。


次:3. 義実、安西景連に邪魔がられる
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