125. 法要をうらむ面々
■法要をうらむ面々
里見の七犬士が、結城の大法要をブチ壊すために進軍してきた300人近い勢力を迎え撃とうとしています。しかし、まず、この「勢力」が何者の手配なのかを説明しておきましょう。
すこし時間をさかのぼります。
通无奇山逸疋寺の住職である徳用和尚は、臨時会議と称して、所属寺院の住職たちをミーティング室に呼び集めていました。
徳用「この通无奇山は、ずっと昔から結城氏の菩提所だ。そこをつかさどる我々に黙って、勝手に結城合戦の戦死者をとむらうイベントをする者がいる。安房の丶大とかいうインチキ坊主だ」
徳用「そいつが、どこの者ともしれん坊主たちを駆り集めて、法要モドキをする一方、施行と称して米とゼニを近辺住人にばらまいたという。(施行のチラシをパンパン叩いて)我々どころではない、結城の領主さえもないがしろにする暴挙だぞ、これは。すぐに殿に訴えて、こいつらを捕らえさせ、きびしく取り調べてもらう必要がある! 断じて放ってはおけん!」
聞いている連中は、おおむねこれに賛成です。
徳用の手下である禄釈坊堅削という男が発言します。
堅削「訴える手続きを取っているうちに、そいつらが逃げてしまうかもしれません。まず我々だけで奴らを捕らえましょう。さいわい、堅名さまと根生野さまが狩で外出中でしたので、ここに寄るよう声をかけておきました。もうすぐ来るはずです」
徳用「おっ、それは都合がいい」
堅名衆司と根生野飛雁太は、どちらも結城の家臣で、逸疋寺の檀家です。やがて、狩装束のまま到着して、徳用の目の前に座りました。
堅名「話はおおむね聞いた。確かに許せんやつらだな。我たちにはそれぞれ100人の兵権があるから、そのくらいの雑兵はすぐに動かせるぞ。まあ、本来は決裁とかいろいろあるんだが、奴らを逃がさないための緊急出動だといえばあとで説明がつく」
根生野「しかし、今日は狩で来たのだから、いったん城に帰らないと兵がそろわん。だから、同僚の長城枕之介にもさっき声をかけたぞ。あいつが多分100人くらい連れてくるだろうから、それで間に合わせよう。ここの坊さんたちも、使える奴らはいるだろ」
徳用「ああ。荒事好きなやつらがたくさんいるぞ」
堅削「さらに、触れを出して、村人たちも駆り出しましょう。ここまでやれば万全でしょう。法要していたやつらは30人そこそこと聞いていますから」
徳用「まあ、負けは絶対にないな。しかし、あの丶大のインチキニセクソナメクジ坊主だけは絶対に逃したくない。周辺の道を漏らさず押さえて、袋のネズミにしてやるのだ」
その場の全員「おうよ!」
やがて、長城もこの場に到着し、召集していた僧兵や村人たちもだんだん集まってきました。
坊主と武士たちが気炎をあげるこの場に、稚児に支えられながらヨロヨロと入ってきた80才前後の人物がいます。ここの先代の住職、未徳です。
徳用「何です、ご隠居」
未徳「おぬしら、結城合戦の慰霊をしてくれたという法師たちを捕らえるとは本当か」
徳用「そうですとも。頼むべき援助もたのまず、勝手なゴッコ遊びで結城家とこの本山をコケにしたのですからな」
未徳「たまたま、こちらの援助を必要としない理由があったのじゃろう。それにしたって、われらには喜ぶべきことであって、何をねたむ理由があろう。法要を行なったのは里見の関係者と聞く。里見季基さまといえば、結城の先代、氏朝さまとは莫逆の友だった方だ。当然、彼らの供養は、里見だけでなく、氏朝さまに向けられたものでもある。今回の話、本当に殿がお怒りなのか? 確かめたのか? ワシはそうは思わんぞ。(家臣たちの方を向いて)そこの方々、本当にこれは殿のご指示なのか?」
堅名と根生野が、「ご先代、お黙りなさい」と厳しく叱りつけました。
堅名「結城の領地で、無許可・無免許で法要を行なった。これはハッキリとした違法行為だ。我々はそれを取り締まるまでのことである。ほかに何の仔細もいらん!」
未徳は徳用の手下たちに両脇をつかまれ、そのままズルズルと奥の部屋に連れて行かれました。
徳用「さあ、グズグズしてはおれんぞ。みんな揃ったようだから、すぐに出陣だ!」
駆り集められた村人たちは、今回の捕物のターゲットが丶大法師であることをここではじめて知らされ、すごく罪悪感を感じてすっかり元気がなくなりました。「えー、あの偉い坊さんを捕まえに行くんだって。やだなー、手伝いたくないなー」
徳用「チンタラするな、指示したとおりにそれぞれの隊に従え!」
ということで、今から犬士たちと戦う人たちをまとめておきましょう。
○ 徳用 … 結城のお寺のボス。ワル。
○ 堅削 … 徳用の手下のワル坊主
○ 堅名・根生野・長城 … 結城の家臣
○ 雑兵と、暴れ坊主がたくさん
○ イヤイヤ従う村人がたくさん
戦いの結果やいかに! まとめ筆者の予想だと、犬士側が勝つ気がするなあ!