5. 伝書バト作戦で定包を倒す
■伝書バト作戦で定包を倒す
定包は、神余の領地をうばった後、安西と麻呂が思ったよりビビっているみたいでご満悦です。玉梓ちゃんといっしょに、酒池肉林の遊びたい放題、ぜいたく放題な毎日を過ごしています。まわりの人々は、「正直、こういうのって長くつづくわけがないよな…」って感じで、眉をひそめています。
そんな定包のもとに、報告が上がってきました。
見張り「大変です、この城に敵が迫っています」
定包「んー、安西でも麻呂でもないなら、せいぜい山賊とかじゃないの」
見張り「源氏の白旗あげてますよ! 隊列もすごく整ってます」
定包「それもコケ脅しだろ。岩熊、錆塚、軽く蹴散らしてきてよ。兵は500人出す」
岩熊鈍平、錆塚幾内に敵の撃退をまかせて、定包は宴会のつづきをします。
雑兵「たいへんです、敵は強いです。錆塚様はやられました。岩熊様も重傷です。残りは逃げてきました。敵は里見義実と名乗るやつで、めっちゃ立派な感じです。神余様の家来だった、金碗八郎も連れてます。萎毛酷六の守る東条の城は、もう落としたって言ってます」
定包「ほんとかよ、ハッタリじゃねえの」
さらに、東条での戦から落ちのびたっていう雑兵も、やっと定包のもとにたどりついて報告します。
雑兵「東条の城が落ちましたあー」
定包「(本当らしいな…)報告が遅すぎるぞ大バカもの!」
雑兵「敵の勢いがすごいので、隠れながら回り道をとおってきたんです…」
定包「おのれ、おのれ、里見と金碗! 特にあの金碗八郎め、結城の落人を引き入れて俺に歯向かうとは、はらわたが煮えくりかえる」
定包は、籠城戦の方針をとることにしました。どうせ敵は勢いに任せて攻めてきただけだから、きっと兵糧が少ないだろうという読みです。こっちがひたすらガードを固めていれば、そのうち腹ペコになって退却するだろうから、それを追撃してやっつけようというのです。
定包「妻立、ちょっと安西と麻呂のところに行って、援軍を頼んでこい」
妻立戸五郎「ははっ」
定包「長狭の東条城を落としたほうに、長狭郡をやるって言え」
妻立「え、そんなことしていいんですか」
定包「あの二人のことだから、城を落としたあとで、絶対にどっちの手柄だったかを争ってケンカを始める。どっちかが勝って、どっちかが負けるだろう。勝ったほうもフラフラになるだろうから、そいつを今度はオレが攻め落とすんだよ。一挙両得、まんまとオレが安房全エリアを平定することになるってわけだ。フッフッフ」
妻立「わかったっす!」
さて、こちらは定包の城を攻めている最中の里見義実。もう三日くらいやってるけど、敵が籠城作戦をとってちっとも出てこないから、厄介この上ない。そのとき、ふと、離れたところから一騎、城を目指して駆け込もうとするやつを発見します。
堀内「あそこから城に入ろうとするのは、たぶん麻呂と安西に連絡してきた密使だ。捕らえろ! 追え!」
義実「いや、深追いはやめよう。どうせもう、麻呂と安西には連絡しちゃったんだ。それより、守りのことを考えておこう。500騎を後ろの警戒に配置、あとは東条にも警戒の連絡をしてくれ」
義実「っていうか、東条から兵糧の補給がこないなあ。トラブってんのかな」
金碗「ここらへんの麦を今刈り取らせて徴用しましょうか」
義実「それをやったら民を救うという目標の正反対だよ。いったん退こうかなあ」
堀内「それはそれで、籠城中の兵がこぞって攻めてくる展開になります。危険です」
それから、金碗と堀内はこのピンチを解決する方法をいくつか考えてみました。
○ かがり火を多めに灯して、兵が近くにいると見せかけながらこっそり退却
○ 麻呂・安西のふりをして城門を開けさせる
義実「どれも詭道だ。敵をだまして勝つのはだめなんだ。あと、人がたくさん死ぬようなやりかたでもだめだ。結局のところ、定包だけを倒すのが目標なんだし」
金碗・堀内「なんか作戦あるんスか」
義実「うーん… 定包の城から、毎朝ハトがちかくの豆畑に飛んできて、豆食って、夕方になるとまた城に帰るじゃん? あのハトに、投降をうながすための檄文をいっぱいくっつけてさあ、城の中にいるやつらに読ませるってのはどうだろう」
金碗「なるほど名案です! すぐ書こう!」
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定包は、主人を殺して人民をいじめるひどいやつ…
こっちの主人は源氏のエリート、やさしいナイスガイ…
きみたち、悪人のために命をかけててかわいそう…
とっとと降参すれば許してもらえるよ…
KANA & MARI
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この作戦は大成功です。城の中の人はこれを読んで感激しました。
「あっちについたほうがずっといい!」
「よし、みんなで定包を暗殺して、それから降参しよう」
「その前に、側近からやっつけようぜ。だいたい定包の取り巻きはみんなクソ野郎で、正直嫌気が差していた」
「さっそく計画だ。ごそごそ…」
妻立戸五郎は、この檄文を読んでびっくり、岩熊鈍平に相談します。もちろん鈍平も同じものを読んでいました。
妻立「さっそくボスにも知らせて対策を…」
ドンペー「いやまて、まわりの様子を見ろ。もう俺たちは、定包もろとも殺される側に数えられているらしいんだよ」
妻立「ぎょっ」
ドンペー「生き残るにはな… 俺たち自身で定包を殺し、クビを渡して許してもらうんだ」
妻立「よ、よくも言えるな、この恩知らずめ!」
ドンペー「まあ聞け。神余様の暗殺事件な… あれはウワサどおり、本当に定包の仕業なんだ。オレも一枚噛んでたんだよ。もちろん、脅されてだ。あいつはそんな奴だったんだ。死んでいいんだよ」
ドンペー「あとな、知ってるぞ。おまえ玉梓に気があるだろ。定包がいなくなれば、おまえの妻にできるかもな。…ともかくよ、この手しかないんだよ」
妻立は協力を約束します。
定包は、自分の部屋で、酔っ払って尺八をピロピロ吹いて遊んでました。そこへ妻立とドンペーが乱入します。
妻立・ドンペー「覚悟!」
丸腰の定包は、二人から繰り出される刀の切っ先をかわし、手にもっていた尺八で受け、それが折れれば竹の切り口を妻立の腕に手裏剣よろしく投げ刺して健闘しますが、もう万事休すです。ドンペーとの取っ組み合いの最中、妻立は自分の腕から引き抜いたミニ竹槍をもって、定包の喉を刺しつらぬきました。絶命した定包から、ドンペーが首級を斬りおとしました。