里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

6. 呪いの言葉とともに、玉梓死す

前:5. 伝書バト作戦で定包を倒す

■呪いの言葉とともに、玉梓(たまつさ)死す

定包(さだかね)のいた滝田城の兵士らは、里見軍から届いた檄文(げきぶん)に感動し、よろこんで投降することになりました。その証しに、定包(さだかね)本人とその側近をじぶんたちでやっつけ、首級(くび)を里見側にささげるつもりだったのですが、狙っていた二人の側近が、堂々と城の内側から出てきました。

鈍平(どんぺい)妻立(つまたて)「われら逆賊(ぎゃくぞく)定包(さだかね)誅伐(ちゅうばつ)せり!」
みんな「あれっ」
鈍平(どんぺい)妻立(つまたて)「ほらほら、降参するんだろ。これが定包(さだかね)のクビだ。いざ、門をひらいて里見殿を迎え入れるのだ」
みんな「(先を越された…)」

あきらかに、鈍平(どんぺい)たちは自分たちが殺されそうなことを察知し、こうすることで危機をまんまと逃れるつもりなのだとわかりましたが、これ以上どうしようもありません。言われるままに門はあけられ、ついにこの滝田の城も東条と同様、里見義実(よしさね)の手に落ちたのです。

両軍の兵たち「いくさが終わった、ばんざーい、ばんざーい」

義実(よしさね)一行が城の中の様子を見てまわると、中は豪華な内装や装飾品であふれかえっていました。倉には米や財宝がぎっしり詰まっており、どれほど民を搾り取ったのかがイヤでもわかります。義実は、自分たちはこれらに手をつけず、すべて領内の百姓に分け与えてしまうことにしました。

堀内「いや、まだきっと、麻呂と安西との戦いが残っていますよ。ちょっとは取っておいたほうが…」
義実「これでいい。民が富むことがわたしの富だ。敵を防いでくれるのも民なのだ。俺たちだけでできることじゃないんだよ」
堀内「あんたカッコよすぎるよ…」

次の日は鈍平(どんぺい)妻立(つまたて)の尋問タイムです。

金碗(かなまり)「なんで自分の主君のクビ持ってきたのさ、教えてよ」
ふたり「定包(さだかね)は悪人と知っていました。でも、自分たちだけでは倒せないから、イヤイヤ従いながら今回みたいなチャンスを待っていたんです」
金碗「ふーん、聞いたウワサでは、おまえらも定包(さだかね)の同類みたいなもんで、今回の投降で殺される候補だったって話なんだけど。保身のために定包(さだかね)殺したんじゃないの」
鈍平「それは妻立のことですよ。あいつは玉梓(たまつさ)を前々から狙っていて、そいつを奪うためにやったんです」
妻立「あっずるいぞ。鈍平(どんぺい)のほうこそ、神余(じんよ)様の暗殺を手伝った悪人なんだ。それで今回、自分が罪に問われないように、先回りして定包(さだかね)を殺したんだ。こいつは二代の主人をふたりとも殺したんだ」

金碗(かなまり)「はっはっは、ふたりとも救いようのない極悪人だね。もちろん死刑だよ」(ぴょーん)(ぴょーん)←首をはねられる音

さて、次は玉梓(たまつさ)の番です。しおれた花のような恰好で、金碗(かなまり)の前に出されても顔をあげることもできません。

金碗(かなまり)「おまえは愛人として主君神余(じんよ)を骨抜きにし、贅沢三昧にふけり、政治にまで干渉して忠臣を遠ざけてしまった。さらに定包(さだかね)と密通し、やつが領主の座を奪ったあとはその妻になって恥じることもなかった。ほんっと悪い女だね」

玉梓(たまつさ)「めそめそ、玉梓(たまつさ)意味わかんない。女はだれかに頼らなくちゃ生きていけないの。神余(じんよ)さまが亡くなって、ワタシどこにも行くとこがなくって、山下さまが好きだといってくれたからそれにすがりついただけなの、悪い? 神余(じんよ)さまと山下さまの両方にお仕えしたのが悪いってことなら、ほかの家来のみんなだってそうじゃない。玉梓(たまつさ)だけが悪いんじゃないもん。あなたなんかさ、神余(じんよ)さまにお仕えしたあと、今度は全然関係ない里見さまにお仕えして、もとの主君のいるところと戦争してるじゃない。自分の栄利のためにそういうことしてさ、ぜんぜんそっちのほうが悪いじゃない」

金碗(かなまり)「都合のいい詭弁を申すな。私が行ったのは、神余(じんよ)さまの敵討ちだ。自分の利益のためにやってはおらん。自分の利益のために悪に従った酷六(こくろく)鈍平(どんぺい)はみな死んだぞ」

玉梓(たまつさ)「エーン、よくわかんないけどごめんなさあい、玉梓(たまつさ)が悪かったワ。里見さまは仁君だから、女まで死刑にはしないわよね。こんなに謝ってるワタシですもの、命だけは助けてくれますよね。ゆるしてくれたら、わたしはおとなしく故郷に帰ります。ね、金碗(かなまり)さまも、もとは同じ神余(じんよ)さまに仕えた間柄じゃない、おねがい、うわーん」

義実「どうしよう、このコは死刑はかわいそうかな…」

玉梓(たまつさ)「おねがい(クネクネ)」

金碗(かなまり)「よく考えてください、この女は定包(さだかね)に次ぐ悪人です。神余(じんよ)の暗殺も、この女が協力しなかったら成功しなかったはずです。これを許せば、民の心は離れますぞ」

義実「うんそうだ、ごめん、やっぱ死刑」

玉梓(たまつさ)「…おのれ金碗(かなまり)、余計なことを! (形相変わる)うらめしきかな金碗(かなまり)八郎、お前は近く刀のサビになるであろう。そしてその家は長く断絶するのだ。また義実(よしさね)きさまも、罪を許すといったそばから許さぬといい、人の命をもてあそぶ愚将(ぐしょう)よ」
玉梓(たまつさ)「わらわは許さぬぞ。殺さば殺せ。おまえらとその子孫まで、畜生(ちくしょう)道にみちびきて、煩悩(ぼんのう)の犬としてくれる! 犬に、犬にしてやる!!」

義実・金碗(かなまり)「うわなんだこいつ、(こわ)っ、こっわー。はやく首はねて」

玉梓(たまつさ)「ぐおおおおお(狂ったように辺りをののしり、もがきまくる。それを四五人の雑兵が押さえつけ、ついに首をはねる)」

義実・金碗(かなまり)「いやー、たいへんだったね…」

この玉梓(たまつさ)の怨念は、強い意志力をもった義実や金碗(かなまり)に直接とりつくことはできませんでした。でも、その子供たちにずっとまつわり続けることになるのです。


次:7. 金碗八郎、忠節を守って自害する
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