里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

8. 伏姫誕生、八房登場、スケベ安西

前:7. 金碗八郎、忠節を守って自害する

伏姫(ふせひめ)誕生、八房(やつふさ)登場、スケベ安西(あんざい)

里見義実(よしさね)に、婚姻の話はたくさんもちかけられました。ストイックなイケメンですので、大変モテたのです。いっぱいいる候補から、上総(かずさ)真里谷(まりや)家の娘で五十子(いさらこ)ちゃんという才色兼備なコを選んで結婚しました。やがて女の子をひとり、ついで男の子をひとりもうけました。女の子の名前は伏姫(ふせひめ)、男の子は次郎太郎(じろたろう)(元服後は義成(よしなり))です。

伏姫(ふせひめ)は、幼いころから輝くような美人でしたが、普段から泣き止まない子で、また、三歳になるのに、まったく言葉をしゃべりはじめる気配がありません。お(はら)いみたいなこともやってもらうのですが、効き目はありません。須崎(すさき)ってところにある、伝説の修験者である役行者(えんのぎょうじゃ)ゆかりの神社にもしょっちゅうお参りをつかわしますが、これもいまひとつです。

五十子(いさらこ)「例の神社、伏姫(ふせひめ)を直接つれてったらもっと効き目がないかしら」
義実(よしさね)「あそこは領地の外だからちょっと危ないんだよなあ。でも、効くかもしれないと思うなら、やってみようか」

ということで、姫とたくさんの従者で、お参りツアーが組まれました。伏姫はいつものように泣きまくりますが、いちおうつつがなく七日間のお参りスケジュールも終え、一行は帰路につきました。里見の領地に入る直前で、一行はナゾの老人に出会います。

老人「お、そこを行くのは、里見の姫君じゃないか。お参りの帰りかな」
従者「なんでわかるんスか」
老人「このジジイからも、ご利益(りやく)を念じてさしあげよう。ムニャムニャ… うーん、このコ、(たた)られておるよ」
従者「えーっ、(はら)って、お(はら)いしてくださいよー」

この老人、タダモノではないと見て、従者は今までのいきさつを詳しく説明しました。

老人「なるほどね。このコに霊のたたりがついておる。でも、大丈夫じゃよ。どんな呪いも、徳のパワーがあれば、災い転じて福となすことができるものなんじゃ。これから色々あるじゃろうが、喜ぶべからず、悲しむべからず。一人の子をたとえ失うとしても、後にたくさんの助けが得られるなら、これは(わざわい)ではない… うん、これをあげよう。お守りじゃ」

老人は、伏姫の首まわりに、ちょっと不思議な数珠(じゅず)をかけてあげました。水晶の数珠で、そのなかの八個には「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」と彫ってあります。いい感じです。

従者「意味深(いみしん)な言いかたしないで、その(たた)りについて、もっと具体的に教えてくださいよ」
老人「天運というのは、ネタバレ禁止なものなんじゃ。でもヒントはあげよう。『伏姫』という名前の秘密をよく考えることじゃ。義実(よしさね)夫婦にもそう伝えなさい。それではな。」

そういうと、老人は須崎の方向にテクテク歩いて去りました。歩いているくせに、すごいスピードで、たちまち見えなくなりました。

気がつくと、姫はもう泣いていません。ニコニコしています。また、この日を境に、言葉もどんどんしゃべりはじめるようになりました。

義実「それはきっと役行者(えんのぎょうじゃ)本人だったんだろう。やったあ、すごいぞ」

伏姫はすくすく育ち、やがて12歳になりました。世にもまれなる美人で、さらに毎日の勉学も欠かしません。親を敬い、(しも)をあわれみ、一挙一動に品位がただよいます。簡単に言うと、パーフェクトガールってことです。例の爺さんにもらった数珠を、お守りとしていつも首にかけています。父も母もデレデレで、目にいれても痛くないというのはこんな感じなのでしょう。

そのころ、義実(よしさね)の耳に、不思議な犬のウワサが入ってきました。(たぬき)が育てた犬だそうです。

技平(わざへい)っていう一人暮らしの百姓が飼っていた犬が、仔犬を一匹生みました。母犬は狼に殺されてしまったのだけど、仔犬は無事でした。でも乳をあたえる母犬がいないのでは、死ぬのは時間の問題です。百姓仕事があるからロクに仔犬もかまってやれず、わりと放っておいたのですが、意外と死なない。気になって見張ってみると、狸が仔犬のもとに通って乳をやっていた… こんな話です。

義実「その犬ほしいな!」
杉倉「なんでです」
義実「(たぬき)が育てたってところがいいんだ。ほら、狸には『里』って字が入っている。里見の犬ってことなんだよ」
杉倉「(この人の教養はあいかわらずハンパない… のか?)」

犬を実際にみせてもらうと、大きくてかわいい、申し分のない犬でした。もともと義実は伏姫のために犬を飼っていたのですが(姫が夢でうなされることが多いので、魔よけのつもりだったのです)、さっそくこの犬に変えることにしました。白地に黒の八つのブチ模様があるので、八房(やつふさ)と名づけました。黒いブチは、すべて牡丹(ぼたん)のような形でした。とても姫になつきました。

そうこうするうちに、姫は16歳になりました。(にほ)ひこぼるる初花に、いざよふ月を()けたる如し… 言葉の意味はよく分かりませんが、とにかくとんでもない美人ってことです。


さて、義実(よしさね)はいつかの(いくさ)がおわって以来、長年、安西(あんざい)景連(かげつら)と領地を接していました。あるとき、安西の使いの蕪戸(かぶと)訥平(とっぺい)が来て、ヘルプのお願いだといいます。

訥平(とっぺい)「今年は凶作で困っています。里見の領地は豊作だったと聞いていますが、米を5000俵くらい貸してもらえませんでしょうか。また、安西さまは子がなく、最近、世継ぎのことを心配しています。つきましては養女をひとりいただきたいのです。そのコに一族から婿(むこ)を選んで世継ぎとしたい」

義実「困ったときはお互い様です。米は貸します。養女や養子については… うちは一男一女のみだから、これはちょっと勘弁してください。(安西は子もないし妻もなかったはず。一族? 誰かいたっけ)」

金碗(かなまり)大輔「えーっと、義実さま…」

金碗(かなまり)八郎の息子、大輔が横から口出ししてきました。今は20歳の立派な若者です。一作(いっさく)老人は最近死にましたが、それの介護も人任せにしなかった感心なやつです。

大輔「安西って昔の敵らしいじゃないスか。今だって、困ったときだけ都合よくこんな話をしてくるだけですよね。向こうが弱ってるってことは、今って、一気に攻めちゃうチャンスじゃないスか?」

義実「若輩者が知ったようなことをいうな! たとえ敵でも、凶事に乗じて攻めるということが許されようか。そんな(いくさ)に民はついてこない。大体、今は安西は敵ではない!」

大輔「…スンマセンっした…」

ということで、結局、5000俵の米を安西に贈ったのでした。その翌年… 今度は安西の領地が大豊作で、逆に義実の領地がひどい凶作になりました。

大輔「安西に言って、去年の5000俵返してもらいましょうよ。大体、言わなくても返してくれていいでしょうに、割と冷たい奴らだと思いますよオレは」

義実「そうだな、じゃあ大輔(だいすけ)が使いに行ってくれ。でも、返せとかなんとか、恩着せがましい言い方しちゃだめだぞ」

義実は、ふだんから大輔に何か手柄をたてさせたいと思っているのでした。父である八郎との約束で、大輔には東条の城主になって領地を与える予定ではありますが、それなりにキッカケというものが要るのです。今回使いにやったのはこんな事情がありました。

大輔は10人くらいの従者をつれて安西のいる真野(まの)を訪ねました。対応してくれた訥平(とっぺい)に、5000俵の米を貸してほしいことを丁寧に頼みました。訥平(とっぺい)は、ボスに取り次ぐわ、と言ったまま、なかなか戻ってきません。夜になってやっと帰ってきたと思ったら、「ボスは風邪をひいてるので、ここに滞在しながらちょっと待っててよ」という返事です。

なんだかんだで、一週間ちかく経ちました。もう訥平(とっぺい)も滅多に会ってくれません。これって何かおかしくないか? 大輔があらためて周りを観察すると、これって、もしかして(いくさ)の準備の気配じゃないか。

大輔「わかった、ウチが弱ってるのに乗じて、里見の城を攻める気なんだ。大変だ、逃げ帰ってボスに伝えないと」

危機一髪で、大輔は安西のもとを脱出しました。しかしそれを追ってくるものがいます。蕪戸(かぶと)訥平(とっぺい)の小隊です。「やあやあ逃げるな卑怯者! お前の帰る場所はもうないぞ。今頃はわれらの軍が『卑怯者』義実(よしさね)のいる滝田を攻めていることだろう。おとなしく降参しろ」

訥平(とっぺい)はさらに、里見義実の「卑怯ぶり」をトウトウと言いたてます。

○ 浮浪者同然だったのに、愚民をだましてまんまと領地をせしめる卑怯者
○ 安西の助けで麻呂を倒したのに、恩をしらない卑怯者
○ 5000俵ぽっちの米の貸し借りをグダグダいう卑怯者
○ 伏姫を安西の側室(そくしつ)に置いてやろうというのに、それを断る卑怯者

大輔「勝手な言い分もここまで言えれば立派なもんだ… あと安西はスケベ野郎だな。ちくしょう、お前らなんかに負けはしない」

バトルが始まります。必死の応戦で敵を30騎は倒したものの、多勢に無勢、7人いた里見側の従者はすべて倒れ、ついに大輔ひとりになってしまいました。絶体絶命の大ピンチ!


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