里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

24. 左母二郎、刀をすりかえる

前:23. 網乾左母二郎登場

左母二郎(さもじろう)、刀をすりかえる

陣代の簸上(ひかみ)宮六(きゅうろく)は、蟇六(ひきろく)の屋敷で接待をうけたときの浜路(はまじ)の美しさが忘れられず、気もそぞろで仕事に身が入りません。これを手下の軍木(ぬるで)五倍二(ごばいじ)が見とがめます。軍木(ぬるで)も先日の宴会に陪席していました。

軍木(ぬるで)「あの浜路(はまじ)という娘が気になるのですね。そんなら、結婚すればいいではないですか。わたしが世話しますよ。あなたのご身分なら、蟇六(ひきろく)も喜ぶでしょう」
宮六(きゅうろく)「いや、あのコは婚約済だしさ」
軍木(ぬるで)蟇六(ひきろく)はあなたの配下ですぞ。そんなのは無理を通せばいいのです。まあ任せてくださいよ」

軍木(ぬるで)は陣代にゴマをすりたいので、こんな約束をしたのち、すぐに蟇六(ひきろく)を訪ねてこの旨を伝えました。

蟇六(ひきろく)「まことにありがたい話です。ですが、まず信乃(しの)との婚約を正式に解消する必要がありますので、しばしお待ちくださいませ」
軍木(ぬるで)「そんな悠長な話を持って帰れるか。今すぐ承知の返事をせよ。その後で、必要なことを考えればよい。よいな、
蟇六(ひきろく)「(青ざめて)ははあっ。承知でございます。
軍木(ぬるで)「この話はまだ内密にな。ではまた」

軍木(ぬるで)は、結婚の約束に山ほど贈り物を置いていきました。

亀篠(かめささ)「すごい結納だわ。よくある品々はともかく、さらに銀が20枚。あっ、この布は(あや)どころじゃない、(にしき)だわ。お宝よ、お宝。ヒャッホウ」
蟇六(ひきろく)「誰にも見られるな。隠せ、隠せ」

その晩…

亀篠(かめささ)「キタわ、玉の輿よ。これで私たちも、陣代の身内よ。セレブよ」
亀篠(かめささ)「実は左母二郎(さもじろう)と結婚させるのもアリかなと思ってたんだけど、格が違うわね。そもそもあいつ、扇谷(おうぎがやつ)様に召し返される予定って言ってはいるけど、考えてみたら本当かどうかもわかんないんだし」
蟇六(ひきろく)「しかし、浜路(はまじ)は思ったより固い娘のようだぞ。信乃(しの)(みさお)を立てているようにも見えるが」
亀篠(かめささ)「ああ、そうかもねえ。っていうかあいつら、デキている気配もあるわ。(以前、浜路が信乃の部屋から逃げていったのを目撃したことがありますが、亀篠(かめささ)の脳内ではこう解釈されています)」

蟇六(ひきろく)亀篠(かめささ)「なにせ、このビッグウェーブに乗るしかない。そのためには、とっとと信乃(しの)を消さないと…」

こんなわけで、ふたりは緊急の作戦を練りました。信乃から宝刀村雨(むらさめ)を奪い、その上で殺してしまうための作戦です。この作戦には左母二郎(さもじろう)を利用することが必要です。

亀篠(かめささ)左母二郎(さもじろう)が、利用されたあげくに浜路と結婚できないと知ったら怒って何するか分かんないわよ」
蟇六(ひきろく)「問題ないさ。そんときゃ、簸上(ひかみ)さまにチクって逮捕してもらうまでよ」


翌日の午後、亀篠(かめささ)左母二郎(さもじろう)の屋敷を訪ねました。

左母二郎(さもじろう)「どうされました、奥様みずから」
亀篠(かめささ)「立ち入った相談なのよ。誰かに聞かれたら困るの」

左母二郎(さもじろう)は心得て、さっそく部屋をスダレで締め切りました。ここで亀篠(かめささ)が語ったことを箇条書きにしましょう。

○ 浜路(はまじ)と結婚させてあげる
○ でもその前に信乃との婚約を切る必要がある。実は自分たちはもともと乗り気でなかった。あいつはそもそも敵の息子だ
○ 信乃を追い出すつもり。これは別に作戦がある
○ しかし追い出す前に、婚約記念にあげた家宝の刀だけは取り返したい
○ ついては、刀を取り戻す作戦に協力してほしい

左母二郎(さもじろう)「なるほど、いいですね。でも拙者は浜路どのに嫌われているみたいですが…」
亀篠(かめささ)左母二郎(さもじろう)ともあろう男が、いやあね。女なんて、手に入れてしまえば、ものじゃない…」
左母二郎(さもじろう)「…ようございます。命にかえてもやりとげてみせましょう」


こんなふうに、亀篠(かめささ)のほうはうまくいきました。次は蟇六(ひきろく)の番です。信乃を居室に呼ぶと、こう語りだしました。ここも箇条書きにしましょう。

○ 去年、近隣の豊嶋(としま)家と練馬(ねりま)家が滅亡する戦があったので、お前たちの結婚を先延ばしにしていた
○ 足利成氏(なりうじ)様は許我(こが)を逃れて千葉にいらっしゃったが、最近幕府との和解がなり、ふたたび許我(こが)に戻ってきた
○ お前の持っている宝刀村雨(むらさめ)成氏(なりうじ)さまに献上するチャンスは今だ
○ そこで身を立て、許我(こが)に住むがよい。そのときは浜路(はまじ)を妻として送ってやる
○ なんならここに帰ってきてもよい。それならお前は私の後継ぎで村長となる。いや、お前なら陣代くらいまで出世できるかも

信乃は、簸上(ひかみ)宮六(きゅうろく)が浜路に結婚を申し込んだことを知っています。(額蔵がいろいろ立ち聞きしてくれているおかげです。)だから、このために、婚約者である自分を遠ざけたいんだろうなあ、という推測はできました。そのくらいのことなら、まあ、いっか。

信乃「わかりました。善は急げです。さっそく明日、出発します」
蟇六(ひきろく)「それがよい。しかし、旅の準備を考えれば、あさってがよいだろう。私たちも手伝おう」

信乃は、部屋に退いて、庭先の額蔵とコッソリ相談します。

額蔵「まあ、浜路(はまじ)さんと陣代を結婚させるため、ということで間違いないでしょうね。今回の出発は、言ってみれば浜路さんを()ることになるわけですが、そこだけは気の毒ですね」
信乃「自分も悪いなあと思う。でも刀の献上を優先しよう。仕方がないよ。彼女はいっとき悲しむだろうけど、こういうのは時間が解決すると思うし」

こんなわけで、蟇六(ひきろく)のほうでも、信乃を旅に出す作戦がなかば成功しました。あとは一番の難所である「刀をうばう」ところです。


翌日の午後、亀篠(かめささ)は信乃を呼び止めて言いました。

亀篠(かめささ)「明日は出発ね。今のうちに、ご両親のお墓にお参りしてはいかがかしら」
信乃「そういえばそうですね。行ってきます」

そして墓参りの帰り道に、今度は蟇六(ひきろく)に出会いました。

蟇六(ひきろく)「やあ信乃くん、奇遇だな(本当はわざと待ち受けてるんですが)」
信乃「やあ伯父(おじ)上、こんな時間に漁ですか」
蟇六(ひきろく)「明日の朝に、君の出発を祝して宴をするのだ。そこによい魚がぜひ必要なのだが、買えなかった。だから今から()るのだ。夜になってしまうまでになんとかしたい。信乃(しの)君も手伝ってくれないか」
信乃「はあ…」

蟇六(ひきろく)といっしょにいたメンバーは、手下の背介(せすけ)と、例の左母二郎(さもじろう)です。この一行で、近くの川に行き、船と船頭を雇いました。船頭は土太郎(どたろう)といって、じつはこいつも蟇六(ひきろく)とグルです。

やがて船を出す段になって、蟇六(ひきろく)は「弁当を忘れた」と騒ぎ、それを取らせに、背介を家に帰しました。つまり、船の上にいるのは、蟇六(ひきろく)左母二郎(さもじろう)土太郎(どたろう)、そして信乃です。

蟇六(ひきろく)「よーしやるぞー、トリャー」

網を投げました。しかし、体がよろけて、川に落ちてしまいました。

蟇六(ひきろく)「ワーオ、助けてくれー、ガボガボ(沈むフリ)」

信乃が蟇六(ひきろく)を助けに飛び込みました。まあ、信乃なら当然やるでしょう。これは蟇六(ひきろく)の計画どおりです。蟇六(ひきろく)は「助けてガボガボー」とわざと大騒ぎして、信乃にしがみついて、却って沈めてやろうとします。蟇六(ひきろく)は実はそこそこ泳ぎがうまいのです。

さらに、土太郎(どたろう)が飛び込んで加勢しました。これもあらかじめ蟇六(ひきろく)と示し合わせており、助けているように見せながら、あからさまに信乃をおぼれさせようとします。

信乃はこれを切り抜けます。まず土太郎(どたろう)を力いっぱい蹴り離して、次に右手で蟇六(ひきろく)を締め付けて身動きできなくしてから、船に戻ろうとしました。しかし船は離れた場所に流されているので、岸に上がって近くの小屋に蟇六(ひきろく)を運び、介抱しました。

信乃(しの)「(どうも、わざと自分を溺れさせようとしたみたいだな… まったく、油断ができないことだ。でもこんな危険も明日までだな)」

信乃(しの)は、蟇六(ひきろく)の最後の陰謀を乗り切ったと思いました。しかしこちらはフェイクです。本当のたくらみは、船に残った左母二郎(さもじろう)に託されています。左母二郎(さもじろう)は、このドサクサに紛れて、蟇六(ひきろく)の刀と信乃(しの)の刀の入替えるという仕事をしていました。

左母二郎(さもじろう)「ちょろいもんだな」

しかし、左母二郎(さもじろう)は信乃の刀を抜いて驚愕します。刃は冷気を放ち、そこから水がボタボタとたれてきます。見ているだけで鳥肌が立ちます。

左母二郎(さもじろう)「これは、ウワサに聞く源氏の宝刀、村雨(むらさめ)に違いない。オレにはわかる。…蟇六(ひきろく)め、これがてめえの刀だと? うそをつけ、むしろこいつを信乃から奪おうとしていたのだろう」

左母二郎(さもじろう)「オレがこの刀を管領の扇谷(おうぎがやつ)さまに捧げれば、再び召し返されること疑いなしだ。…どうせ蟇六(ひきろく)には刀の見分けなんかつかねえ。こうしてやるぜ」

こんなことを一瞬の間に考え、左母二郎(さもじろう)は一世一代の早業で
○ 自分の刀の刀身を、蟇六(ひきろく)の刀につけかえました。
○ 蟇六(ひきろく)の刀の刀身を、信乃(しの)の刀につけかえました。
○ 信乃(しの)の刀(つまり村雨)の刀身を、自分の刀につけかえました。

(刀から刀身をはずすには、目釘(めくぎ)っていう部品を引き抜けばいいだけですので、まあ、やろうと思えばやれるのです)

さいわい、どの刀もそれぞれのサヤにぴったり納まるようで、これなら簡単に疑われる心配はなさそうです。ついでに、左母二郎(さもじろう)は、蟇六(ひきろく)の刀のサヤには川の水を入れておきました。

左母二郎(さもじろう)「刀から水が出るってことだけは知ってるだろうからな。あんなヤツ、これでごまかせるだろ」

そうしてからやっと、船を岸につけたのでした。

その夜は、こんなハプニングもありましたし、たいした魚が取れないままに解散となりました。信乃は、蟇六(ひきろく)が二重のワナをしかけていたことには思いもよらず、つい、刀の中身を確かめることを怠ってしまいました…


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