里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

25. 浜路、信乃に恨み言をいう

前:24. 左母二郎、刀をすりかえる

浜路(はまじ)信乃(しの)に恨み言をいう

蟇六(ひきろく)は、溺れるフリをして、助けに来た信乃(しの)を逆に溺れさせてしまおうとしたのですが、信乃(しの)が想定以上にタフガイだったので失敗しました。かえって自分が疲れ果て、けっこう水を飲んでしまいました。ホントに溺れかけたようなもんです。

帰り道…

蟇六(ひきろく)「いやあ参った。こんなことは一生の不覚だよ。信乃くん、女房にはこんなことは黙っていてくれよ」
信乃「(白々しいなあ)はあ。なにしろ、無事でよかったですね」

弁当を取りにやっていた背介(せすけ)と、屋敷の近くで出会いました。

蟇六(ひきろく)「いまさら弁当なんか、遅いわ!」
背介「いや、弁当なんか準備されていなかったんですよ。だから今まで作って…」
蟇六(ひきろく)「ええいうるさい、もういい」
信乃「(これも、単に背介さんを遠ざけるための方便だったんだろうなー)」

さて、屋敷に帰ったのち、夜は更けてしまいましたが、ささやかなお別れパーティーが催されました。家のものはみな寝ているので、蟇六(ひきろく)亀篠(かめささ)、信乃、額蔵の四人だけです。さっきの漁で小さい魚はとれたので、それを焼いたやつが出されました。

亀篠(かめささ)「額蔵には、信乃くんのお供に行ってもらうことにするからね」
額蔵「はあ。わかりました」
亀篠(かめささ)「信乃くん、これが道中の旅費よ(お金をわたす)」
信乃「はあ、ありがとうございます」
亀篠(かめささ)「さあさあ、あしたは早いわよ。もう寝なさい」

信乃たちが部屋に戻ったあと、蟇六(ひきろく)亀篠(かめささ)と引き続き密談します。

蟇六(ひきろく)「フ、フフフ。成功したぞ。村雨はまんまと私のものになった。溺れかけてまでがんばった甲斐があったぞ」
亀篠(かめささ)「すり替えに成功したのね。見せてよ、見せて」

刀を抜くと、刀身と(さや)から水がボトボト垂れました。(単に、左母二郎(さもじろう)が川の水を入れたからですが)

蟇六(ひきろく)「すごいぞ、刀から出るこの大量の水。これこそは村雨の特徴だ」
亀篠(かめささ)「なんと神聖な感じの水でしょう。ついにやったわね」

蟇六(ひきろく)「ところで、額蔵には伝えたか」
亀篠(かめささ)「もちろん。許我(こが)への道中で、信乃を殺してしまいなさいと言い聞かせたわ。信乃が多少腕が立とうと、不意打ちなら避けられないでしょうよ」
蟇六(ひきろく)「あいつらの仲が悪いことは、みなが知っている。ケンカで殺してしまったのだと思われるだろうから、私たちには疑いが及ばない」
亀篠(かめささ)「さらに、万一額蔵が信乃に返り討ちになったとしても、村雨はもうこっちのものなのだから、問題ないわね。あとで気づいて信乃に訴えられても、しらばっくれればいいだけ」
蟇六(ひきろく)「完璧だ、このプランは。ハハハ…」
亀篠(かめささ)「今夜は祝杯よ」

ふたりは作戦の成功に安心しきって、ベロベロになるまで飲みました。


信乃は寝床に入りましたが、物心(ものごころ)ついてから今までのことを思い返していると眠れません。ふと、近くの床がきしむ音に気づきました。

信乃「(刀を手にもって)何者だ!」

女の弱々しい声。「浜路(はまじ)です…」

信乃「浜路(はまじ)か… こんな時間に自分と一緒にいるなんて、誤解を招くよ。戻りなさい」
浜路(はまじ)「今夜きりでのお別れなのでしょう? なぜ私に一言も言ってくれないの」
信乃「許我(こが)へ行って戻るだけだよ。3、4日で帰ってくるから」
浜路(はまじ)「うそ、もう戻ってこないつもりだわ。許我(こが)で足利さまに仕えることになるのでしょう。あなたのいない生活は耐えられない。いっそ、私を殺してから出て行ってよ」
信乃「自分たちの婚約は、あくまで蟇六(ひきろく)の方便なんだよ。あなたは別にちゃんとした婿をとることになるから」
浜路(はまじ)「そんなのイヤよ。殺してちょうだい」
信乃「これがお互いのためなんだよ。あなたの真心(まごころ)はよく知っているし、自分もそれを忘れはしない。生きていれば、いつかまた一緒になるチャンスもあるかもしれない。しかし、自分のためを思ってくれるのなら、今回は聞き分けてくれ」
浜路(はまじ)「…」
信乃「あなたの実の両親が練馬(ねりま)のあたりにいるかもしれないってことは聞いてるよ。もっとも、さきの戦で死んでしまったかも知れないけど。これについて何かわかったら、それは知らせることにするから」
浜路(はまじ)「…わかりました。よろしくお願いします。あなたの出世を願っています。来世では一緒になりましょうね。シクシク…」

浜路(はまじ)は部屋に戻っていきました。もう明け方近くです。

その後すぐに額蔵が部屋を訪ねてきました。出発の時間です。明け方で涼しいうちにできるだけ距離を稼ぎたいので、こういうのは早く出なくてはいけません。

ふたりで準備を確認すると、信乃は、蟇六(ひきろく)亀篠(かめささ)にいとまごいの挨拶をしようとして、家の中に大声で呼びかけました。「おじ上、おば上、いってまいります。起きてますかー」

蟇六(ひきろく)亀篠(かめささ)「(寝ぼけながら、声だけ)はいはい、いっといで」

こんなわけで、信乃と額蔵の許我(こが)への旅が、いよいよ始まりました。

ちなみに、蟇六(ひきろく)亀篠(かめささ)は昼近くにやっと起きてきて、「信乃は出発のあいさつもしなかった」と怒りましたが、これは手下たちの苦笑の的になりました。

蟇六(ひきろく)「何はともあれ、信乃を追い出してせいせいしたぜ。お前ら、門に塩まいとけよ」

浜路は起きてきません。この日以来すっかり弱って、寝込んでしまうようになりました。蟇六(ひきろく)たちにとって浜路は今や「富と出世へのプラチナチケット」ですから、その日以来、やっきになって色々な治療を試しはじめました。この成り行きは、また別の回に。


さて、信乃と額蔵は、すこしだけ寄り道して、額蔵の母の墓に参っていくことにしました。義兄弟になったからには、額蔵の親は信乃の親でもあるのです。

額蔵の母の墓は、旅婦(たびめ)(つか)と呼ばれています。はじめ、母は田んぼの(あぜ)に捨てるように埋められただけでしたが、当時の額蔵は、近くの(えのき)(こずえ)に、こっそり注連縄(しめなわ)をめぐらせておいたのです。それを百姓たちが見つけ、「木の霊が、亡者をちゃんと祀るように言っているぞ」と騒いだので、蟇六(ひきろく)も放っておけなくなり、結果として立派な祠堂(ほこら)ができあがったのでした。まあ、ここらへんは、ストーリー的にも寄り道です。

その後は急いで、日暮れまでに、許我(こが)まであと四里ほどの距離にある栗橋(くりはし)というところの宿まで着けました。ここらへんまで来れば、もう信乃と額蔵が仲良くしても問題ありません。それまでは、蟇六(ひきろく)の見張りを警戒して、ずっとムッツリ歩いたり、ときどき口げんかしたりというカモフラージュを続けていたのです。

信乃「はー、やっとまともに口をきける状態になったかな」
額蔵「なかなか今までしんどかったですねえ」

そして、お互いが見聞きしたことを出し合って、蟇六(ひきろく)の企みの全貌はどういうことなのかと考えることにしました。

○ 村雨を許我(こが)に献上する旅に出ろという
○ 旅の準備にかこつけて、川で溺れさせられそうになった
○ 浜路を陣代の嫁にしたいらしい

信乃「材料はこんなところかな?」
額蔵「まだありますよ。実は、私は、信乃さま殺害の密命を受けているのです」
信乃「えー」
額蔵「ほら、こんないい短刀まで預かりましたよ。いかにも本気ですよね。みごと()ったら、浜路(はまじ)さまと結婚させてやる、とまで言われました」

額蔵が見せてくれた刀は、大塚匠作(信乃の祖父)から亀篠(かめささ)に守り刀として贈られた、(きり)一文字(いちもんじ)という名刀です。

信乃「(ため息)なんで、身内なのにあんな酷い人がいるんだろう… じゃあ、全体のストーリーはこんな感じかな」

○ 浜路を陣代の嫁にしたい。そのために信乃がジャマ
○ 村雨の献上をダシにして、許我(こが)に旅に出すことにした
○ でも村雨は奪いたい。なので、信乃殺害のための二重のワナを敷いた
 a. 川で溺れさせる(これは旅の準備にからめる)
 b. a.に失敗したら、旅の途中で額蔵に殺させる

信乃「これでファイナルアンサーだ。じゃあ、自分達はぜんぶ乗り切ったんだな」
額蔵「よかったですね」
信乃「うん、却って、自分の宿願だった、宝刀村雨(むらさめ)を成氏さまに捧げるチャンスができたんだからね」

信乃「額蔵、いや、犬川荘助(そうすけ)どの、一緒に許我(こが)で身を立てよう。君は仕事の合間にたくさん勉強したし、武芸も練習した。即戦力だ」
額蔵「私自身は、まずは大塚の里に戻るべきだと思うのです。浜路(はまじ)さまが何か早まったことをしないようにサポートしてあげたいのです。また、仮にも私は蟇六(ひきろく)さまに今まで世話になったわけですから、どんなにひどい人でも、正式に(いとま)をいただくまでは逃げるわけにはいきません。ここらへんをクリアしたら、すぐに信乃さまのもとに駆けつけます」
信乃「いかにも、もっともだ。じゃあ、そのときまでのお別れだな」

額蔵は、手足にちょいちょいと軽く刀の傷をつけて、大塚に戻るという作戦を立てました。「信乃と戦ったんだけど、結局逃げられた」という演出のためです。これから二人がどうなることか、乞うご期待。


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