里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

134. 親兵衛、大いに反省する

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親兵衛(しんべえ)、大いに反省する

親兵衛は、海賊のボスを追って海中に落ちてしまい、絶体絶命のピンチに陥りましたが、助けに入った姥雪(おばゆき)代四郎(よしろう)のおかげで事なきをえました。

親兵衛「あ、ありがとう、代四郎さん。恥ずかしながら、私は泳ぎだけは苦手なんです…」
代四郎「(脩羅五郎(しゅらごろう)のクビを小舟に投げ込んで)間に合ってようございました」
親兵衛「しかし… 金を一箱、海に落としてしまったんです。それだけじゃない。大殿にせっかくいただいた、小月形(こつきがた)の名刀までも、さっき海に落ちたとき、腰から抜けて水中に沈んでしまった。ここは決して浅くないし、きっともう見つかりません。この罪、死に値するでしょう…」

親兵衛はいつになくしょぼくれています。代四郎は、さっき賊が乗っていた舟が浮かんでいた場所を見定めると、「んー、ひとつ、やってみますか」とつぶやき、ザブンと垂直に潜りました。

親兵衛は、代四郎が乗ってきた舟に一人残って、クヨクヨしていました。しばらくすると… 代四郎がガバッと水面に戻ってきました。なんと、金の入った箱と、ひとふりの刀を抱えています。

親兵衛「う、うおおっ!」
代四郎「ぶはーっ。どうやら、こんなときでも、伏姫さまが守っていてくださるようですな。半分は当てずっぽうでしたが、ほら、見つけてこられましたぞ」
親兵衛「さ…さすがです! いつか戸田川で見せた水練のワザ、健在どころか、ますます冴えて…」
代四郎「今までのご恩の、一万分の一でもお返しできたでしょうかな、ハハハ(耳から水を出すために、片足でトントン)」

親兵衛は、なくし物が見つかって元気を取り戻しました。

親兵衛「今までの事情はあとで説明します。まず船に戻って、船員たちの様子を確認しないと。さっき、敵に毒を飲まされてしまったんです」

親兵衛と代四郎は急いで軍船に戻りました。味方はみんな毒でしびれて虫の息でしたが、親兵衛が「玉」を一人ずつ順番にかざしていくと、それぞれ息を吹き返して、さっき飲み食いしたものをすべてゲーゲーと吐き出しました。

船員「あれっ… 何があったんでしょう。さっき、急に苦しくなって…」
親兵衛「かくかく、しかじか」
船員「そうだったんですか。お許しください親兵衛さま。酒に目がくらんだのがいけなかったんです。あんなに注意しろって言われたのに」
親兵衛「私だって(だま)されたんだよ。五十歩百歩さ」

甲板には、さっき親兵衛に打ちのめされて痛みにうめいている海賊たちがゴロゴロ転がっていました。これらを帆柱に縛り付けて、今回のたくらみの全貌を吐かせることにしました。その中には、例の物売りもいました。当然ながら、こいつもグルだったんですね。

物売り「この船が金銀財宝を積んでいることを知りましたので、毒を使った襲撃を計画したんです。さっき、城の家臣のフリをして、あなたがたの仲間を陸地に連れ出したのも、私どもの仲間です…」

親兵衛「何っ! 照文どのと代四郎さんの身が危な… って、あれっ? 代四郎さんはここにいる」
代四郎「こちらの説明が遅れてすみませんでした。さっきは急でしたからな… ともかく、あちらのことは、なんとかなったからもう大丈夫です」

代四郎は、さっき親兵衛と別れてから何があったのかを説明しはじめました。

- - -

私どもは、四九二郎(しくじろう)と名乗る男に連れられて、奥郡(おくのこおり)の城に連れられていきました。途中、妙に暗い森の中の道に入っていきました。おかしいなと思ったときにはもう遅く、私どもは、鮫皮のヨロイに身を包んだ敵の集団に取り囲まれていました。

「まんまとだまされたな。有りガネも、命も置いていくがいい」

こちらの敵の大将は、今純友(いますみとも)査勘太(さかんた)という、剛力の者でした。私どもは刀を抜いて、できる限り敵を倒そうと頑張ったのですが、味方は次々と負傷して、みるみるうちにピンチに陥ってしまいました。

そうして、いいかげん死ぬ覚悟をするところまで追い詰められたとき… 鉄砲の音がして、敵がバタバタと倒れていきました。我々を助けてくれたのは、なんと、奥郡(おくのこおり)の領主、隣尾(となお)伊近(これちか)の率いる軍隊でした。たまたまこの日、住民の訴えにもとづき、盗賊を平らげるために出陣していたのでした。

「お前たち、よく持ちこたえたな。もう安心だぞ」

査勘太(さかんた)は、いよいよ興奮して荒れ狂いましたが… 彼は照文どのと紀二六(きじろく)の連携プレーで、なんとか捕らえることができました。私自身は、例のニセ家臣(ホントの名前は五鬼五郎(ごきごろう)といいました)と戦い、これもなんとか倒すことができました。

結局ここから味方が優勢になって、その場にいた敵はみんな捕らえることができました。敵のひとりを拷問すると、船のほうにも襲撃部隊が向けられていることが判明しましたので、私がひとりでこちらに様子を見にきた、というわけです。

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代四郎「敵の白状によると、酒に毒を混ぜて飲ませる、という作戦で金銀を奪おうとしているということでした。まさか親兵衛さまがそんな手にひっかかることはないだろう、と照文どのは安心していましたが… いやいや、不測の事態というのはあるものです。ホント、来てよかったです」

親兵衛は、この話を聞いて、味方の頼もしさに感動すると同時に、自分のことを非常に不甲斐ないと感じました。

親兵衛「…代四郎さんの今回の手柄は、まさに第一級です。そして、大軍をささえて戦った照文どのと紀二六どのもよくやってくれました。ダメだったのは、私のみです」
代四郎「とんでもない、そんなことはありませんぞ」

親兵衛「今こそ気づいた。ああ、私はすっかり慢心していたんです! 大殿の命を救い、素藤(もとふじ)を倒し、そして丶大(ちゅだい)さまを助けて殿の先祖の遺骨を守ったと、うぬぼれていたんです。八犬士の中でいちばん手柄を重ねていると、天狗になっていたんです。いつか今日のような失敗をすることは当然だったんです」

親兵衛「考えてみれば、私の前にあったのは、いつもお膳立てされたシチュエーションばかりでした。私は姫様の加護と殿の威光をバックに、安心して力を振るっていればよかったんです。それに引き換え、七人の犬士たちは、長年の苦労の果てに今のような実力を蓄えたんじゃないですか。本当に尊敬すべき人達だ。私なんか、実に薄っぺらな、取るに足りないガキんちょに過ぎなかった! ああ、姫神さま、私は心を入れ替えます。今までの慢心を許し給え!(天を仰いでひざまずく)」

代四郎は、親兵衛の猛烈な反省ぶりに感動しました。「いやいや、君子は豹変できるとはこのことじゃ。自らをここまで批判して改めることができるとは…」

とはいえ、他に伝えなければいけない用事もありますから、あまり長くこうしているわけにもいきません。

代四郎「親兵衛さま、この話はすこし後にして、照文どのたちに、ここであったことを伝えに行かないと。実は、隣尾(となお)どのも、『ぜひ里見の家臣、犬江(いぬえ)親兵衛(しんべえ)に会ってアイサツしたい』ということで、こちらに向かってくれているんです。他の人達も一緒にいます。私はちょっと走って行って、先に今のことを伝えておきます」

親兵衛「おっ、そうなんですか。じゃあお願い」


やがて、親兵衛のもとに、馬に乗った隣尾(となお)伊近(これちか)の一行と、照文・紀二六の一行が一緒に到着しました。負傷していた兵たちも、カゴに乗せられて運ばれました。

隣尾(となお)「あなたが犬江どのか。今回、あなたと、蜑崎(あまさき)直塚(ひたつか)紀二六(きじろく))、姥雪(おばゆき)どのたちの協力のおかげで、最近の悩みだった盗賊団を壊滅させることができた。厚くお礼を申し上げたい」

親兵衛「いえいえ、私などは何もできなかったほうで」

隣尾(となお)「ご謙遜を。お礼までに、負傷した兵たちは、こちらで預かって療養させたいと思うが」

親兵衛「ありがとうございます。こちらには良薬がありますので、お気持ちだけで」(親兵衛には、例の「霊薬」がありますからね。これで治すのが何より手っ取り早いのです)

隣尾(となお)「そうか。何か、私たちにできることはないかな。安房の里見といえば、先祖が南朝の忠臣だった私としては、とても親近感を感じるのだ」

親兵衛「ありがとうございます。では、せっかくですのでお言葉に甘えて…」

親兵衛が頼んだのは、安房に手紙を届けるために、一隻の船を出してくれないか、ということでした。今回の事件を、なるべく早く安房にも知らせておきたいのです。

隣尾(となお)「OK、簡単なことだ。部下に手配させておく。じゃあ日も暮れかけてきたので、私はここで失礼する。京からの帰りにも、ぜひもう一度寄ってくれ…」

こうして、隣尾(となお)は、脩羅五郎(しゅらごろう)の首級を受け取り、部下たちを連れて城に帰っていきました。親兵衛と照文は、めいめい、筆を取りだして、安房に報告するためのレポートをしたためました。

親兵衛「代四郎が大活躍したことも、もちろん書いておくからね。これで、勝手に旅に着いてきたという罪は帳消しにしてもらえるはず」
代四郎「ありがたいことです…」

さて、誰が安房に戻る役を負うべきでしょう?

紀二六「…えっ、私ですか?」
照文・親兵衛「頼むよ」
紀二六「私はまだまだ着いていきたいですよ。今回みたいなトラブルがまたあるかもしれないじゃないですか」
親兵衛「ここからはたぶん安全だよ。殿たちにいろいろ聞かれたとき、今回のことを詳しく口頭でも話せる者じゃないとダメなんだ。頼むよ」
照文「ほら、親兵衛どのに指名されるなんて、名誉じゃないか」
紀二六「わかりましたよー」

夜が更けてきました。こうして、紀二六は、隣尾(となお)に借りた船(と船員)を使って安房に戻っていきました。親兵衛たちは、もとの船に乗り込み、いよいよ苛子(いらこ)の港を出て浪花(なにわ)に向けて出港していきました。


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