里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

147. 三つの関所

前:146. 親兵衛、虎をたおす

■三つの関所

虎を倒した親兵衛は、あとで証拠として見せるために、小刀をつかって片耳を切り落としました。

親兵衛「うん、うまくやった。半分くらいはこの走帆(はしりほ)のおかげだな。お疲れ、水と(まぐさ)をあげるぞ。実にいい馬だ」

ちょうどよい具合にくぼんだ石を見つけたので、そこに水を汲んで、馬に与えて休ませました。親兵衛自身もすこし座って休むことにしました。

親兵衛「フー…」

そのとき、奥の木の間から、チラチラとたいまつの光が現れました。警戒してさらに見守ると…

親兵衛「おっ、お前は紀二六(きじろく)
紀二六「親兵衛さま! よかった、ようやく見つけた。ご無事で」
親兵衛「うん。どうしたんです。わざわざこんなところに私を探しに来たってことは、何か起こったんですか」
紀二六「そうですよ。五虎(ごこ)の連中が今から襲ってくるかもしれません。注意してください」

紀二六は、宿を出てから今までに起こったことをすべて簡単に報告しました。どうしても役に立ちたくて、親兵衛の指示を破って、代四郎と少人数の兵を連れて山に登ったこと。徳用たちが虎に手足を食われたこと。雪吹(ふぶき)姫を救ったこと。そして、親兵衛が狙われていること、などなど。

親兵衛「なるほど。まあ、襲ってくる連中はきっと大したことはありません。徳用は… 私がやっつけなくとも、天罰によって自滅したってことですね」
紀二六「ところで虎は? 退治できたんですか」
親兵衛「うん。あれを見てよ」

紀二六は、親兵衛が指さした先にタイマツを持っていって、巨大な虎が両目に矢を打ち込まれて死んでいるのを発見しました。死んでなお迫力のあるその姿に、おもわず後ずさりしてしまいました。

紀二六「あ、あれですか… よくぞまあ」

親兵衛「こうこう、こういう感じで虎を倒すことができたんです。この馬もよく働いてくれたし、運もよかった。すべて、姫神さまの助けと、里見の両殿の威徳がなせるわざと言うほかありません」

親兵衛「きっと、この虎の弱点は目だろうと踏んでいたんですよ。目に瞳を描いたことで絵から飛び出したっていうんですからね。今、矢を抜いたら、この場から消えて絵の中に戻ってしまうと思います。だからまだこのままにしておきましょう。ちゃんと退治したことを管領の手下に確認してもらうまでね」

紀二六はひたすら感心しています。

親兵衛「この虎は、話に聞く限り、実際には悪人しか襲っていなかったといいます。だから、普通の人達はあまり怖がる必要はなかったんですよね。私もこの虎に襲われたってことは、悪人ってことかなあ、とちょっと悩んじゃうんですが」
紀二六「いや、そんなことはないですよ、絶対」
親兵衛「まあ、今回は、私が虎を倒して安房に帰れるようにという、神のだったと信じることにします。ところで、私を襲いにくるという人達は、いつごろ来そうですか」
紀二六「うーん、いつ、というか… とっくに来てておかしくないくらいですが」

親兵衛「一応、そういうことも予想して準備はしていたんですよ。先の丸い矢を使って、彼らを殺さずに懲らしめようと思ってました。(殺したら管領に恨まれますからね。)しかし、この時間になっても来ないのなら、まあ、ひょっとすると内輪モメでもあって、襲撃を中止したのかも」
紀二六「そうかもしれませんね。そんなに結束が強いわけでもなかったでしょうから。言い出しっぺの徳用たちもあんな目にあってますし」

親兵衛「よし、じゃあここにはもう用はありません。今から辛崎(からさき)阪本(さかもと)の関所を通って木曽路に向かいます。いよいよ安房に帰れる」

紀二六「私もついていきます」
親兵衛「いや、紀二六は、ここで虎の死体を見張っていて、管領の部下が来たら説明をしておいてくれますか。それで、改めて代四郎さんたちと帰路についてくださいよ。今回、雪吹姫を助けたということもありますし、管領にこれ以上引きとめられることはないでしょう」

紀二六「わかりました、そうします。親兵衛さまは食べ物をお持ちですか。おなか減ってないですか。ちょっと戻れば弁当がありますけど」
親兵衛「ああ、そういうのは大丈夫なんですよ。例の霊薬はですね、お腹が減ったときにも効くんです。ついでに、寒さも忘れさせてくれるんです。余分な食べ物はいりません」
紀二六「へ、へえ、そうなんですか… なんとも便利な…」

親兵衛は、それじゃあよろしく、と言い残すと、走帆(はしりほ)にまたがって駆け去っていきました。


さて、それから親兵衛は、無理な道を通らず、なだらかな坂を選びながら、山を反対方向に降りていきました。そこには辛崎(からさき)の関所がありました。ちょうど夜が明けてきたころです。親兵衛は馬を降りて門番に呼びかけます。

親兵衛「安房の犬江親兵衛です。今回の用事を終え、帰国の(いとま)をいただいた。通してください」

ここの関守は、老松(おいまつ)湖大夫(こたいふ)惟一(これかず)です。門番から報告を受けて、親兵衛の目の前に出てきました。

老松(おいまつ)「ここを通りたいとな。手形は?」
親兵衛「はい、これです。政元(まさもと)さまにいただいた手紙です」
老松(おいまつ)「(内容を読んで)フーン、虎を退治したのでここを通る、か… いいでしょう。虎を退治した証拠はあるかね。ここにも、必ず証拠を確認せよ、と指示してあることだし」

親兵衛は、フトコロにしまっておいた、虎の耳を探しました。

親兵衛「虎の耳が、ここにあるはず… なんだけど、落としちゃったかなあ。おかしいな」
老松(おいまつ)「フーン?(疑いのマナザシ)」
親兵衛「えーと、虎を倒した場所はおぼえていますよ。白川山の、談合谷のあたりです。そこに誰か派遣して、死骸を確認してもらってください。私の伴人の紀二六もいますから」
老松(おいまつ)「ンー、まあそうするべきだな。お主はここで待っていなさいよ」
親兵衛「よろしく」

老松(おいまつ)は部下を数人編成して白川山に送り、虎の死体を確認してこいと命じました。部下たちは、いちおう出かけはしましたが、虎が退治されたことをあまり信用していません。

部下A「まだ虎がいたらさあ、俺たちが襲われるんじゃね?」
部下B「行って探したフリだけしようか」
部下C「あんなガキが虎を倒せるワケがないからな。たぶんウソなんだよ。どうせ分かりきってるんだから、行くのやめようぜ」

部下たちは、白川山に入らずにコメダ珈琲(コーヒー)に入って、適当に時間をつぶしてから戻りました。

親兵衛は、ずっと関所の門の前で待っています。ずいぶん時間が経ったはずですが、まだ通っていいとも悪いとも言われません。放置されています。

親兵衛「どうも、様子が変だな…」

さらに耳をすますと、どうも武具がガチャガチャと鳴るような音が聞こえます。親兵衛は危険を感じ、走帆(はしりほ)をとめておいた綱をほどくと、素早くまたがりました。それと同時に門がバンと開き、武装した老松(おいまつ)が騎馬の状態で現れました。

老松(おいまつ)「犬江親兵衛め、ウソをついてこの関所を通ろうとは愚かなり。かの場所に、虎どころかネコの子さえおらなんだわ。阪本(さかもと)大津(おおつ)の関所にも、この件はすでに通達したぞ。逃げ場はもうない。観念せよ」

親兵衛「おい、ちゃんと見てきたのか。万一虎が(絵に戻って)いなくなっていたとしても、紀二六はいたはずだし、そうでなくても、木に刺さった矢は必ず残っているはずだぞ。本当は確認してこなかったんでしょ」

老松(おいまつ)「問答無用!」

30人ほどの雑兵が出てきて、親兵衛を捕らえようとしました。親兵衛は、木の球のついた矢を弓から放って、次々と兵をたおしました。死にはしませんが、かなり痛いようです。矢がなくなると、近くの兵から刺叉(さすまた)を奪って振り回し始めます。みな、親兵衛の戦闘能力に驚いて逃げ出しました。

それに入れ替わって現れた一隊は、今度は阪本(さかもと)の関守、根古下(ねこした)厚四郎(あつしろう)鴿宗(はとむね)です。100人くらいの雑兵を連れています。

根古下(ねこした)「援軍にきたぞ! 犬江よ、覚悟しろ」

親兵衛「まだ来るの。いくら来ても同じだぞ!」

親兵衛は縦横無尽に馬を操って、根古下(ねこした)とその部下たちを、生かさず殺さず戦います。そのとき、離れたところから煙があがっているのに根古下(ねこした)が気づきました。

根古下(ねこした)「あれっ、あの方向は、俺たちの阪本(さかもと)の関じゃないか! 火を放ちやがったな! ええい、一旦退却だ。みな、大津に行け!」

こうして、阪本(さかもと)の兵たちと辛崎(からさき)の兵たちは、みなバラバラと大津に向かって逃げ出しました。

大津の関からは、関守である大杖(おおつえ)ナンチャラ(もう名前省略)が100人の手勢を連れて援軍に走ってきたところですが… これら逃げる人々に正面からぶつかって、もみくちゃになって収拾がつきません。

大杖(おおつえ)「ウワー」

親兵衛「お前たち、戦う気があんのか。ちゃんとやれ! かかってこい!」


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