157. みんな里見を手伝いたがる
■みんな里見を手伝いたがる
毛野・道節・荘助・現八は、堀内の屋敷から戻って、千代丸豊俊との面談がうまくいったことを信乃と小文吾に、そしてその後に義成にも報告しました。
義成「OK。豊俊のことは、万事毛野に任せる。たのんだぞ」
11月も終わりに近づきました。国境付近に放っていた諜報たちが次々と情報を持ってきて、義成や家臣たちに扇谷定正たちの様子を報告しました。続々と管領の同盟の勢力が集結しつつあることが、つぶさに分かりました。
義成「向こうの勢力は、ざっと10万といったところか。こちらの勢力も次々と稲村に到着しており、今は3万と5、6000といったところだな。うむ、慌てるほどの差じゃなさそうだ」
11月28日に、里見側は本陣を洲崎明神の付近に設置し、犬士たちをはじめとする家臣たちを全員集合させました。誰もみな、最上の防具と刀をそろえて勢揃いしています。特に、信乃の帯びる名刀村雨や、荘助の雪篠の両刀がとりわけ目を引きます。
義成「みんなそろったかな… おっ、お前たち、どうしたの」
義成が気づいたのは、このまえ定年退職したはずの、杉倉氏元、堀内貞行、ほかに小森と浦安という老いた男たちです。
杉倉「当家の安危にかかるときに、年寄りだからといって我々がカウチポテトでのんびりしていてよいわけがない。杖にすがってでも戦うつもりで参りました」
義成「いやいや、老いたものをコキ使ってよいわけがない。お主らの子たちはみな今回の戦いに参加するのだし、安心して見守ってやってくれ。…しかし、どうしても働きたいというなら、どうか、滝田の父上(義実)のそばにいてやってくれ。あそこでも籠城の準備をしなくてはならん。父上もきっと喜ぶ」
杉倉「ははっ! 殿のおん計らい、孝にして慈悲なり!(感涙)」
こういうことで、4人の老臣たちは滝田に行き、義実とあわせて5人のジジイクラブを結成して、城の守りを手配することになりました。
さらに、洲崎の本陣に、ひとりの男が20人ほどの民兵をつれて馳せ参じました。天津九三四郎です。彼は以前、富山で義実を襲おうとして失敗したうちのひとりです。その後許されて、上甘利弘世(神余の子孫)の世話をしていたのでした。
天津「大敵迫るとのウワサを聞いてはじっとしておれず、今こそご恩に応えるべき時と、推参いたした次第! 弘世は病弱なため、わたしがその名代として死にに来ました」
義成「おう、おう、その気持ちはありがたい。しかしお主のあるじは上甘利だぞ。死んだら彼が困るだろう。そちらを大事にしなさい。戦には参加させられん」
天津「弘世がもしも人並みであったら、必ず今回の戦いに加わらずにはいないことでしょう。里見への仁義を守るためです。義のためなら、死がなにほどのものでしょう。どうか、どうか!」
義成「そうか、それほど言ってくれるのなら、お主は稲村の城を拠点に、兵糧の運搬係をやってくれ。敵と戦うのも、その戦いをサポートするのも、大事さは同じだぞ。どうだ」
天津「ありがとうございます!」
こういうわけで、天津九三四郎は兵糧を運ぶ「しょくぱんまん号」を預けられ、稲村に籠もりました。
さらに、3人の男達が本陣に馳せ参じました。
義成「いやあ、次々来るなあ… つぎは誰?」
それは、荒磯南弥六の弟である阿弥七と、その息子の増松です。もうひとりは、かつての南弥六の手下で、今は母の世話のために椿村に退いている墜八です。(マイナーキャラがたくさん出てきて、記憶力クイズみたいな感じになってますね)
義成「いやー、みんな戦っちゃあダメな人達だよ。阿弥七は、南弥六の先の働きに報いて楽をしてもらってるんだし、増松くんはまだ11歳だろ? あと、墜八はひとりで母親の世話をしているっていうじゃないか。それを戦に駆り立てるなんて」
阿弥七「兄・南弥六の罪を許し、華々しい死に場所をくださった里見のもとへ、こんなときに馳せ参じないのでは、恩も義も知らぬバカ者と言われても仕方ないどころか、兄の霊にとり殺されても文句はいえません。どうか使ってください!(涙)」
墜八「わたしがこの軍役を望むのは、母の心です。こんなときに恩を忘れるような私を、どうして母が許してくれましょう。私を使ってください!(涙)」
義成「…フー、いやいや参った。みんな大したヤツだ。じゃあ、烽火台の係をやってくれるか。増松君が班長で、残りの2人は彼の後見をしてくれ。烽火担当の兵は別にいるので、彼の指示にしたがってくれ」
阿弥七・増松・墜八「承りました!」
こんな感じで、里見の軍には、いつかの恩を返すために様々な人たちが集まってきて、領地全体が一枚岩のように団結していることを兵士たちに印象づけました。
兵士たち「仁君をリーダーに持つということはこういうことなのだなあ。敵が10万人で攻めてきても、負ける気がしないな…」
さて、いよいよ具体的な軍議に入ります。
まず義成は、大方針として、犬士たちに兵士の賞罰のことをすっかり委任すると宣言しました。
義成「海戦の総大将はわたし、陸戦の総大将は義道が行う。しかし、それぞれの隊においては、指揮の権限はすべて犬士たちにあることとする。もちろん、最終的な責任者は私であるから、犬士に過ちがあるときは私が責任を負う。反対に、犬士に功があったときは、部下達も含めて賞する」
義成「もうひとつ。敵を殺さないことを最も大事なルールと定める。敵の大将を生け捕ることが、最もよい。殺すのは仕方がないときだけだ。このルールに背き、進んで敵を殺すようなものがいる場合、その場で死刑となると心得よ」
義成は、6人の犬士たちに、委任のあかしとして、一振ずつの名刀をそれぞれ手渡しました。
義成「お主らに、これらの賞罰をすべてまかせる。今ここにいない犬江親兵衛と犬村大角に渡す分の刀は、それぞれ信乃と現八にあずける。彼らに会ったら渡してやってくれ」
犬士たち「ははっ!」
ここまで軍議が進んだとき、滝田から3人の家臣が到着しました。ふだんは義実の近習をしている、東峰萌三、小湊目、蛸船貝六郎です。
萌三「さきほど、敵のスパイとおぼしい人物を捕らえたのですが…」