165. 管領軍の秘密兵器
■管領軍の秘密兵器
さて、行徳での戦いは前回までで終了ですが、ここからは国府台での戦いがどうなったかを見ていきます。国府台は利根川(暴河)を挟んで東に位置し、行徳よりも上流にあるところです。
国府台の城はもともと真間井と継橋が守っていますが、ここに、陸の総大将である里見義道、防禦師の信乃・現八、その他に東辰相をはじめとする家臣たちが集いました。安房を出たときは9000人くらいの軍だったのが、途中で住民の兵が続々と合流して、今は12000人くらいの規模です。
辰相(今回は総大将の後見役)「昨日(12月2日)調べたところによると、敵軍の大将は山内顕定、そして足利成氏です。その下に、家臣たちがたくさん従っています。越後の長尾景春があとで軍に加わるのではないかとも言われています。全部で兵は30000人以上です。どういう方針で戦いましょう。籠城かな。それとも籠城だと消極的すぎるかな」
信乃「うーん、敵が利根川を渡って攻めてくるのを待つより、あらかじめ川を渡って向こう岸で迎え撃つのがいいと思います。一見、川を渡る敵をいじめるのが楽そうですが、こっちに渡られたらその後がつらすぎます」
現八「うん、向こう岸までは里見の領地なんだから、遠慮もいらないはずだしな」
辰相「よし、そうしましょう。二人の犬士と、杉倉・田税が行ってください。5000人の兵をつけます」
ここまでの話を、総大将の義道がさえぎります。
義道「私も戦いたい。その軍に加えてくれよ。ずっと城に籠もっているなんて情けない」
信乃はすこし困ります。「御曹司の勇ましさ、まことに頼もしゅうございます。しかしまだ敵がどのくらい強力かも分かりません。我々だけでは苦戦するようでしたら、そのときあらためて加勢をお願いすることになるかと…」
義道は、「そうか。わかった、犬士たちの意見に任せるよ」と聞き分けました。
こちらは、そのすこし後(12月5日)の、顕定たちの作戦会議です。瓶蟻に陣を張って、主な隊長たちがみなそろっている中、顕定が弁を振るいます。
顕定「敵はずいぶん少ないようだぞ。城に籠城するのが5000人、川を渡って陣を張っているのが同じく5000人くらいだ。我らの軍は45000人以上(土地の野武士が加わったから)。この戦力差なら余裕だな。向こうも、変な小細工をしないで籠城でもすれば、少しは長く持ちこたえられるだろうに。ま、それにしたって我が軍の勝ちは揺るがんがな」
横堀在村「しかし、敵にもなにか考えがあるように思えますが」
顕定「確かに、油断するわけにはいかん。あえて背水の陣を張っているあたりは、ちとアヤシイ。しかし、そんな小細工に意味はないのだ。今回、我々山内家からは、秘密兵器を持ってきたのだからな」
在村「秘密兵器?」
顕定「スタッフよ、部屋の明かりを暗くしろ。みなのもの、スクリーンの方向を見られよ…」
プロジェクタから投影された画像には、横向きのゴンドラを三頭の馬がひっぱっている絵があります。ゴンドラは車輪で移動できるようになっており、その中には12人の兵が乗っています。6人は鉄砲を、6人は弓を構えています。人間も馬も、金属のヨロイを身にまとっています。
顕定「私はつねづね、中国では戦車を使うのに我が国で使われないのは不思議だと思っていた。絶対役に立つと思うのに。そこで、前々から、職人をたくさん雇って秘かにこれを制作していたのだ。名付けて、駢馬三連車。どうだ強そうだろ。鎌倉から船で運んだものが、すでに後方に届いているはずだ。数百台準備してある」
_人人人人人人人_
> 駢馬三連車 <
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このプレゼンを見て、みな度肝を抜かれました。
成氏「すごい… のう在村」
在村「まったくですなあ…」
顕定「ここから里見どものいる土地に向かう途中、平坦で狭い土地を通ることになる。そこが、わが駢馬三連車のデビュー戦にふさわしかろう。三連車の研究担当である斎藤盛実くんを戦車指揮にあたらせる。犬士どもを一ひねりにすること疑いなしだ…」
そして翌日の12月6日早朝。信乃と現八をはじめとする5000人の隊は、川を渡って五十四田に陣を張っています。
現八「間諜によると、向こうの敵陣には45000人ちかくいるらしいな」
信乃「うん。こちらの戦力は10分の1だ。ここは何か工夫すべきところですが… 王者の戦いというのは、あえて奇をてらわないものです。まずは当たってみて、敵の様子を実感で知るところから行きましょう」
(まさかのノープラン?)
信乃「ここから敵陣の間は、土地が狭いです。だから向こうのように人数が多いのでは不利なはずですが… わざわざそこで戦いたがっているように見えます。何か考えでもあるのかも。だから、敵が退いても深追いはしないという原則で行きましょう」
杉倉・田税「わかりました!」
こうして、先鋒には杉倉と、城の頭人である潤鷲・振寺を含む2000人の隊を送って前進させました。その後ろには遊軍として田税逸友の1000人の隊、そして後陣が信乃・現八のそれぞれ1000人ずつの隊。やがて先鋒が、敵の先鋒である白石重勝と衝突しました。すこし小競り合いを演じたのち、白石はあっけなく後ろに退きます。
杉倉「深追いはしないぞ…」
そのとき、横の林の中から、馬に曳かせた異様な戦車が何台もガラガラと出てきて道をふさぎました。これらは兵が乗っていて、銃と矢を杉倉の隊にあびせかけます。これに乗じて、さっき退いた白石たちも引き返してきます。
杉倉・潤鷲・振寺「なんだこりゃ!!」
杉倉たちは踏みとどまってなんとか防戦しようとしますが、なかなか反撃の手がかりがありません。味方は次々と傷を負っていきます。
遊軍の田税は驚いて、先鋒を救おうとその隊に近づきました。そのとき後ろから同様に戦車がゾロゾロと出てきて、先鋒隊と遊撃隊はまとめて挟み撃ちにあってしまいました。異様なマシーンに隙間なく囲まれて攻撃を受け続け、味方は大ピンチに陥りました。このままでは全滅してしまいます。
信乃・現八「あれはやばい。なんとかしないと」
信乃の1000人は、大道を避けて林に隠れながらこの現場に急ぎました。林から出るあたりのところで、戦車を指揮する斎藤盛実の隊(2000人)に出会いましたが…
信乃「ええい、どけ、どけ」
信乃たちは猛然とヤリを振り回して突破しました。そうして適当な戦車の後ろを取ると、そこから乗っている兵を切り落とし、馬を倒して戦車を壊してしまいました。
【戦車ワンポイントメモ】後ろが弱い
信乃「囲みに穴があいたぞ。みんなここから逃げろ」
閉じ込められていた兵たちがここからワーワーと逃げて、なんとかピンチを脱出できました。敵の白石は逃げる兵たちを追おうとしましたが、戦車のゴミが邪魔をして、追い切れませんでした。戦車はUターンにも手間がかかってゴタゴタしています。
【戦車ワンポイントメモ】ゴミになると邪魔
【戦車ワンポイントメモ】Uターンが苦手
現八も、別のルートでこの戦車隊に近づいていました。さっき信乃に突破されて腹をたてている盛実の隊にこちらも突っ込むと、現八は盛実と一騎打ちに持ち込みました。そうして敵のヤリをカラリと落とさせてしまってから、怪力で馬上にひっぱりあげ、そのままワキにかかえて捕らえてしまいました。
白石「おのれ犬飼! やっと戦車のゴミを撤去したぞ。こうなれば調子がもどる。戦車隊よ、行け!」
現八「はっ、オレには鉄砲の弾は当たんねえよ。それに、これが見えないか。人質がどうなってもいいのかよ」
盛実「ワーン」
白石「あっ! おい、おまえら追うな! 人質がいる。特に、盛実は顕定さまのお気に入りだから死なせてはまずい…」
こうして、信乃・現八をはじめとする全軍は、五十四田の陣に戻っていきました。
盛実が捕虜になったと聞かされた山内顕定は激怒しました。
顕定「バカモノ! 戦車がありながら何事だ!」
成氏「顕定どの。あの犬士たちは札付きのワルなのですよ。なかなか一筋縄でいかん。我らはあいつらに恨みが多い。次の戦闘では、こちらに先鋒をやらせてもらえませんかな」
顕定「うむ、そうしてもらおう。さっそくあいつらを追おう」
こういうわけで、40000人以上の軍と戦車隊は、五十四田に向かって驀進しました。狭い土地を過ぎていよいよ敵陣に近づくかというところに、成氏たちは異様なものを見て軍を止めてしまいました。
目の前にあるのは、長阪河という小川です。そこには土の橋がひとつかかっていて、その上にたった一騎だけ、犬飼現八が平然と立ちはだかっています。現八は、数人の手勢を残して、隊のほとんどを本陣に返してしまっていました。
明らかに策略がありそうです。成氏、顕定、上杉憲房は顔を見合わせました。
成氏「くそっ… 構うものか、突入しよう」
顕定「いや、戦車はあの橋を渡れん。かなりもろそうだ。他にもきっとなにかある」
【戦車ワンポイントメモ】橋を渡るのが怖い
現八「おい、どうした。オレは一騎きりだぞ。そちらの40000人の中に、ひとりも進むものがいないのか。管領軍は腰抜けぞろいか。特に、そこの成氏配下の横堀在村。オレを無実の罪で牢屋に放り込むだけが能なのか。ほらほら、悔しかったらかかってこいよ」
在村「おのれ…」
(在村が現八(当時は見八)を牢屋にブチこんだエピソード、おぼえてる人はいるかな… 芳流閣の戦いのあたりのことですよ)
挑発されてついに成氏はブチ切れ、「憎いやつだ。みな、かかれ! 突撃しろ」と叫びました。そうして軍が騒然と動き出したころ…
道の脇の稲塚に隠れていた30人程度の鉄砲隊が、左右から戦車隊を撃ち、いくつかを壊してしまいました。管領軍は、これをきっかけにパニックに陥ってしまいました。現八たちの実際の兵力はたいしたことはなかったのですが、演出がうまかったせいで、敵は算を乱して全員逃げ帰ってしまいました。現八のクソ度胸のなせるわざです。
現八「ははん、うまくいったじゃないか。戦車を曳いていた馬もいっぱい置きっぱなしていきやがった。こいつを回収すればあとで有利だ… が、あんまりグズグズしていて敵が戻ってきても困るな。放っておこう。さて、橋を壊して帰るぞ」
(どうして顕定が若い斎藤盛実をお気に入りだったのか、扈従出身の盛実をお気に入りだったのかというと… いや、ヤボなのでこれ以上説明しないでおきましょう)